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虹蛇
7p
 日下部と一緒にカレーを作って、それをテレビを観ながら食べて、二人で洗い物をして、その後、並んでソファーに座ってテレビを観て。
 テレビに飽きると、天谷は本を読んで、日下部はテレビゲームをして、それぞれ過ごした。
 こうして二人で過ごすうちに時間は夜の十二時を過ぎた。

 今、天谷は先に入浴を済ませた日下部と入れ替わりに浴室の狭い浴槽に浸かり、体を温めていた。
 浴室には湯気が立ち込めている。
 今日は雨のせいか、肌寒い。
 天谷はお湯をすくって、顔にかけた。
 顔にかかったお湯の温かさに天谷は、ほっと息をつく。
(はぁ、俺って意志が弱いよな。結局、泊まってしまった)

「天谷?」
 急に脱衣場から掛かった日下部の声に天谷はビクリと体を震わせた。
 その時、浴槽に肘を打ち付け、「痛い!」と天谷は声を漏らした。
「おい、大丈夫かよ」
 と日下部が言う。
「だ、だだっ、大丈夫です!」
 天谷は答えた。
 突然現れた日下部を前に、天谷は落ち着きを完全に無くしている。
「あの、何ですか?」
 浴槽に響く天谷の声は裏返っていた。
 天谷は肩まで湯舟に浸かって浴室のドアを見る。
 ドアの磨りガラス越しに日下部の姿がぼんやりと見えていた。
「お前、風呂から中々出て来ないからさ、大丈夫かと思って様子を見に来たんだが」
 日下部はドア越しにそう言う。
 言われてみれば、長湯をしていた様な、と天谷は思った。
「だ、大丈夫。風呂、気持ち良かったから長くなっただけですから」
「そうか、なら良かった。お前の事だから、まさか風呂場で、のぼせているんじゃないかと疑ったぜ」
「のぼせて無いです。もうそろそろ出ますから、心配しないで下さい」
 天谷は湯舟に口を沈めて、ブクブクと音を鳴らしながらしゃべる。
「お前、さっきから何で敬語なんだよ。本当に大丈夫か」
 日下部の手がドアノブに掛かるのを磨りガラス越しに見た天谷は、湯舟に半分沈んだ顔を上げて「大丈夫ですから!」と吠える様に言った。
 日下部の手がドアノブから離れる。
 それを見て天谷はホッと胸をなでおろした。
「のぼせないうちに出て来いよ。着替え、ここの籠の中に置いておくからな」
 日下部にそう言われて、天谷は「はい」と返事をする。
 日下部は、笑い声を漏らして、じゃあな、と言うと脱衣場から出て行った。

 静かになった浴室の中、天谷は湯舟の中に頭を沈ませていた。
(俺のバカ! 日下部の前で、何を取り乱してるんだよ! 普通に! 普通に!)
 息が苦しくなって湯舟から顔を出すと、天谷の視界は、くらりと回りだした。
「のぼせた」
 そう呟いて、天谷は重い体を浴槽から上げた。

 天谷は浴室から出ると脱衣場の冷えた黒いタイルの引き詰められた床に引かれた使い古されたバスマットの上から動かない様に注意してバスタオルで体を拭いた。
 バスタオルはふかふかしていて天谷はそのさわり心地のよさに強張っていた顔を緩めた。
 天谷の家のバスタオルは皆、けばだってゴワゴワしているのだった。
(柔軟剤ってやつを使っているのかな。なんか、良い匂いもするし)
 天谷はバスタオルに頬ずりをしてから流石にバカだとバスタオルを離して、洗面台に置いてあった眼鏡を掛けてから日下部が用意した着替えを床に置かれた藤の籠から出して手に取って広げた。
「うっ」
 広げた着替えを見て天谷は唸る。
 パンツは黒のジャージでゴールドのラメの入ったラインが入っている。
 そして、上着はゴールドの色でgive me moneyとでかでかと文字の書かれた黒いブイネックの長袖のティーシャツだった。
(日下部のやつ、これを着ろって? 相変わらず凄いセンスだな。自分は不通の服を着る癖に、俺に貸す服だけいつもどこかズレてないか? この文字、金色でgive me moneyって、どれだけ欲しがってるんだよ。まあ、貸してもらうからにはありがたく着るしかないという現状なのだが、しかし)
 これを着た時の自分の滑稽な姿を思い描いて天谷は憂鬱に頭を痛める。
 脱いだ自分の服を探してみるが、探したところで無駄だった。
(俺の服は、時すでに洗濯機の中か。日下部、何でも洗濯機に放り込みやがって。雨だってのに。……着るしかないか。日下部のやつに後で文句の一言でも言ってやらねば)
 他の洗濯物と一緒になり、しけった自分の服を忌々し気に眺めて、天谷は日下部の用意したジャージに足を通した。

 仕方なく着た服は、それなりに似合っていて、天谷の気持ちは複雑だった。


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あきゅろす。
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