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虹蛇
6p
 二人の時間はあっという間に過ぎて窓の景色が夕闇に染まっていた。

「日下部、俺、そろそろ帰ろうかな」
 天谷は部屋の時計の針を見ながら言う。
 時計の針は午後五時四十分を指している。
「帰るって、この雨だぜ。大丈夫かよ」
 雨は激しい音を立てて降っている。
 今外に出たら傘を差しても濡れるだろう。
「大丈夫だよ。日下部、傘かしてくれない?」
「泊って行けよ」
「え、でも」
「明日は日曜日だし泊まるにはちょうどいいじゃん。お前、絵、まだ仕上がって無いだろ。今日泊って、明日またうちで描けばいいじゃん。どうせ明日も来る気だったんだろ?」
「それはそうだけど、でも……」
「何だよ、何か泊まれない理由でもある訳?」
「そ、それは」

 天谷には理由がある。
 しかし、それは日下部には言うことは出来ない。
 もし、日下部がその理由を知ったら彼はどうするだろうと天谷は考える。
 下らないと笑うだろうか?

「と、とにかく、帰るから」
 天谷は立ち上がり、スケッチブックを鞄にしまう。
 日下部も立ち上がる。
「おい、天谷、お前は何をそんなにムキになってんの?」
 日下部に言われて天谷は、ムキになった顔をして「は? ムキになってなんか無いし。初めっから泊まらないって言ったじゃん」と言った。
「そこがムキになってるっての。つか、お前、首なし騎士が俺の首を狙ってるとか脅しといて帰る気かよ。無責任!」
「何だよ、それ。お前、まさか、首なし騎士にビビってるのかよ?」
 天谷は面白そうな顔をして日下部を見る。
 そんな天谷を日下部は嫌そうに見返す。
「い、いや、そそそ、そんな訳無いだろ! ただ、お前には首なし騎士が本当に来るかどうかここで見守る義務があるだろうが!」
 日下部は何故か天谷からの視線から逃れて目を泳がせている。
 この様子だと、日下部がスリーピーホロウの伝説の事を気にしている事は明白の様に天谷には思えた。
「そんな義務あるか! 一人でビビってろよ! このチキン男が! 俺は帰る!」
 天谷は持ち物全部を鞄に詰め込むと玄関口へと歩きだした。
 その天谷の後を日下部が付いてくる。
「本当に帰る気かよ」
「くどいぞ、日下部、俺は……」

 雷が落ちた。

 そして、部屋の明かりが一瞬暗くなる。

 明かりがついた時、天谷は日下部の方へ、身を寄せていた。
「あっ」
 天谷は直ぐに日下部から離れた。
 咄嗟に日下部の方へ自分の体が動いてしまった事に天谷は戸惑う。
「雷、凄いな」
 日下部が何事も無かったかのようにカーテンの下りた窓の方を見て言う。
「うん」
「……なぁ、お前、俺の事、チキン男とか随分な事言ったじゃねーか。俺、わりとグラスハートなんだが」
 日下部が、沈んだ声でそう言った。
「な、何だよ、そんなの……冗談だし」
 日下部は何で、今、そんな話をするのだろうと天谷は思ったが、天谷はそれを日下部には訊かない。
「冗談かよ」
「冗談だよ」
「じゃあ、冗談ついでに泊って行けよ」
 そう言って、日下部は天谷の頭にそっと手を乗せると、天谷の髪を掻きまわした。
 天谷は目を瞑ってされるがままになる。
 いつもは嫌だというのに、それが出来ない。

 なぜ?

 その理由を天谷は考える事を、もう止めた。
「夕飯、チキンカレー作るから、お前も手伝えよ」
 日下部にそう言われて、天谷は目を閉じたまま、「うん」と答えていた。

 雷の音が遠くで響く。

 その音を、天谷は忌々しいと思った。




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