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虹蛇
12p
 二人は校舎の二階、三階を周り、一階へ降りた。
 一階を巡り、小宮と天谷は体育館への渡り廊下まで来て立ち止まった。
 ここまで来て、天谷には若干疲れが見えていたが、小宮は元気そのものだった。
「さぁて、どうしようかな。校舎は周っちまったし、外の方まで行くか? どうする、天谷」
 そう言って小宮は手にしている看板を持ち手を軸にしてクルクル回す。
 看板には、ピンク色のポスターカラーで女装カフェと言う文字とハートのマークが書かれている。
 小宮が回している看板を見ていると天谷は目がチカチカした。
「えーっと、俺は、どっちでも……」
 曖昧な答えを天谷が言おうとした、その時……
「おーい、小宮!」
 小宮を呼ぶ声に二人は反応する。
 女装した男子生徒が二人の方へ小走りに駆けて来た。
 二人のクラスメイトだ。
 彼は二人の前で立ち止まる。
 彼の息は弾んでいた。
 「こんな所にいたのかよ。看板持ち、交代の時間なのに二人が戻って来ないから探しに来たんだぜ。俺が変わるから、二人とも、このまま休憩入っていいぞ」
 彼がそう言うと小宮は嬉しそうな顔を作った。
「マジか、悪い、じゃあ、頼むわ」
 小宮は片手で彼を拝み、彼に看板を渡す。
 彼は看板を受け取ると「じゃあな」と言って去って行った。

「天谷、休憩だって」
 テンション高めに言う小宮に天谷は「うん」と一言返す。
「えーっと、どうする?」
「え、どうって」
「だから、お化け屋敷。俺と休憩、一緒する?」
「え、ええっ。ああ、えっと」
 天谷は言葉を詰まらせると小宮から視線を外して自分の上履きのつま先を見た。

 明らかに困った様子の天谷の姿に小宮はため息を吐く。
(はぁ、まだ全然なついてないっての)
 小宮は脳裏に浮かんだ受付の女子生徒に向かって一言物申したい気持ちに駆られた。

「なぁ、天谷、俺、ちょっとトイレ行ってくるからさ、お前、ここで待ってて。その間にどうするか考えて決めといてよ」
 顔を上げない天谷に小宮はそう言って静かに背を向ける。
「あ、待って」
 小宮の背中に慌てて手を伸ばす天谷だったが、小宮は天谷を振り返らなかった。



 一人残された天谷はしばらく小宮の残像を追ってその場に立ち尽くしていたが、すれ違う人とぶつかると渡り廊下の端に移動してそこを自分の居場所に決めた。
 天谷は体育館から校舎へと行き交う人達の足下ばかり見て小宮を待った。
 体育館からは軽音楽部の奏でる演奏が流れてくる。
 音楽と共に体育館から溢れ出る活気に溢れた人の声が逆に天谷を心細くさせる。

 小宮が戻って来ない事も、その逆も、天谷には不安だった。
(あいつに何て言えば良いんだろう)
 休憩時間を小宮と過ごすか否か、天谷には決められない。
 誰かと一緒にいる事なんて今まで無かった天谷には、誰かと一緒にいる事を選ぶ事なんて出来なかった。
「どうしよう」
 天谷は呟く。
 天谷の表情は曇っていた。


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