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虹蛇
8p
「ほら、ベッドに着いたぜ。布団に入れよ」
 小宮は天谷の肩に手を掛ける。
 天谷の体はびくりと震えた。
「ん、悪い。なんか怖がらせた?」
 そう言うと、小宮は天谷から手を離す。
 天谷は首を振って、しどろもどろに話した。
「ううん、ごめん。俺、他人に触られるの、実はあんまり得意じゃなくて。手とか繋ぐのも本当はダメなんだけど、なんか、なんだか、大丈夫かなって思ったんだけど、でも……」
「うん」
「なんか、人と話すのも、他人の事を考えるのも苦手で、こんなんじゃダメだとは思うんだけど、上手くできなくて」
 天谷は自分でも何を言っているのか分からない事を小宮に話していた。
「頭痛くなったのも、君の事考えてたから……それで、それで……なんか、君の事考えたら訳が分からなくなって、それで……。ごめん、俺、変な事を言ってる。ごめん」
 天谷は歪む思考を絞り出して言うだけ言うと、言葉を無くした。
 天谷は俯く。

 少しの沈黙の後、小宮が「変じゃないよ」と一言言った。
 天谷は顔を上げて小宮を見る。
 小宮は白い歯を見せてニカッと笑っていた。
 その笑顔は天谷を不愉快にさせなかった。
 天谷の気が抜ける。

「あの、ごめん、俺、本当にっ」
 自分の感情の動きを誤魔化す様に早口で言う天谷に、小宮は一層笑う。
「謝らなくて良いから。そんなに一生懸命喋らなくても大丈夫。ちゃんと聞いてるよ。なぁ、寝ろよ、な」
「うん、寝るよ」
 そう言って、天谷は不意に小さく微笑んだ。
 それは天谷が他人に向ける初めての笑顔だったかも知れない。
 何で笑ってしまったのか、天谷にも分からない。
 小宮の笑顔につられたのかも知れない。
 小宮が優しく笑うから、だからかも知れなかった。

 天谷がベッドに入ると、小宮はベッドの縁に腰を下ろす。

 天谷は布団から半分だけ顔を出すと自分を見下ろす小宮の顔を見た。
 金髪に染めた小宮の髪が天谷の顔に落ちる。
「あ、悪い、近づき過ぎた」
 小宮はやや伸びた髪をかきあげて天谷から顔を離す。
 恥ずかしそうに小宮を見上げる天谷の目は熱のせいか潤んでいた。

「あー、天谷、寝る時ぐらいは眼鏡外せよ」
 照れたように小宮が言う。
 小宮に言われるままに、天谷は眼鏡を外し、手を伸ばして眼鏡をサイドボードに置いた。
 小宮は眼鏡を外した天谷の顔を見てため息をつく。
「お前って、やっぱり綺麗な顔してんな。お前が前髪伸ばしてんのって、もしかしてその顔隠すためなん?」
 小宮がそう言うと、天谷は口をポカンと開けた。
「からかうなよ。母親には気持ちの悪い顔だって言われてるけど。前髪、ただ切るのが面倒なだけ」

『気持ち悪いわ。お前の顔。見ていると吐き気がする。私を見ないで頂戴。……なによ、その目は、汚らわしいものでも見るような目で私を見ないで頂戴。汚らわしいのはお前のほうなのに』

 天谷の頭の中にこんな台詞が浮かんだ。
 天谷はそれを打ち消すように目の前の小宮の唇の動きに注目する。

「はぁー、お前の顔が気持ち悪いって、何それ、俺はそうは思わんけど。つか、前髪、ただ伸ばしてるだけかよ。俺はてっきり……」
 そう言って小宮は額に手を当てて、そして、うん、と一人納得したように頷いた。

 小宮は「なぁ」と、天井に視線をさ迷わせながら天谷に呼びかける。
 天谷が小宮の顔を見ながら「なに?」と言うと、小宮は、唐突に「俺は好きだよ、お前の顔」と言った。
 小宮のその台詞に天谷は目を丸くした。
「好きとか、初めて言われた」
 天谷の声は本人も気付かないくらいに僅かに震えている。
 小宮は天井の一点を見つめて「そうか」と静かに言った。

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