虹蛇
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「ちょっと、小宮! さっきからボーッとしてないでなんか案出しなさいよ!」
いきなり委員長から小宮に声が掛かった。
ホームルームで刺されるなんて思ってもいなかった小宮は、ポカンとして、「ふぇ?」と間の抜けた声を出す。
小宮のその様子をクラスメイト達が笑う。
「小宮、あくびばかり出してないで一つくらい、いい案出しなさいよ。こっちが一生懸命やってるのにずっとぼんやりじゃん!」
委員長は小宮に怒り心頭だ。
「失礼な、ずっとぼんやりなんかしてねーよ。ちゃんと話聞いてたよ」
小宮が反論すると、委員長はギロリと小宮を睨む。
「嘘ね、私、見てたもの、小宮、途中、寝てたでしょ。起きてからも心此処にあらずだったじゃない」
委員長は小宮を厳しく追及する。
小宮はへらへらとして「委員長ってば、会議中にそんなに俺の事ばかり見てたの。よそ見のし過ぎじゃありませんか」と言った。
委員長は顔を赤く染めて「な、何を言っているのよ!」と、叫けぶ。
クラスメイト達がすぐさま小宮と委員長を冷やかした。
委員長は顔を真っ赤にして「黙りなさいよ、アンタ達!」とカンカンに怒って言う。
「小宮、立ちなさいよ! ふざけんなよ! 出し物、何にするか、アンタが考えて!」
委員長のその台詞に、クラスメイト達は「そうだ、そうだ、小宮が考えろ」と楽しそうに言う。
クラスメイト達のふざけた様子に流石の小宮も困った様で、席を立ちながら「いきなりそんな事言われても」と頭を掻いた。
小宮は辺りへ眼を泳がせる。
そして、隣の彼を見た。
彼は小さくあくびをしていた。
(なんだよ、コイツだってぼんやりしてるじゃん。なのに何で俺だけ刺されるんだよ)
小宮は急に彼の事が憎らしくなった。
そして、小宮は、あくびを繰り返す彼の赤い唇を見て、ハッと思いついた。
小宮は悪魔的な表情を浮かべてニヤリと笑う。
「あー、出し物、そう言えば、さっき、隣の……天谷君が、女装カフェが良いとか言ってましたぁ」
小宮のその台詞に、突然自分の名前を上げられた彼はハッとして小宮の顔を見る。
その彼の視線には小宮は気付かなかった。
「女装カフェ。男子が女装して接客するってアレ? あ、あーっ、いいんじゃない。それならどのクラスもやらないみたいだし」
委員長が手を打って言うと、クラスの女子達から「いいじゃん、女装カフェ。ソレに決めようよ!」と弾んだ声が漏れる。
男子達からは「嫌だよ」と言う声が若干聞こえた。
クラスは女装カフェの話で盛り上がりを見せた。
「じゃあ、多数決ね。女装カフェが良い人!」
委員長の声と共に、有無を言わせぬ多数決が始まった。
多数決の結果は……
「多数決の結果、ウチのクラスの出し物は女装カフェに決まりました。発案者の天谷君と小宮には絶対に女装してもらうから!」
そう言う委員長に、小宮が「え、俺も? 発案者は俺じゃないんだけど」と声を上げるが、委員長の耳には入らなかった。
「じゃあ、出し物は決まったし、解散って事で!」
誰かが元気よくそう言うと、生徒達はバラバラと席を立つ。
委員長が教室を出ようとしている生徒に向かって「出し物の詳しい話はまた次のホームルームでするからね!」と呼び掛けた。
「小宮、アンタも次のホームルームは出し物の発案者としてしっかり参加してもらいますからね」
「ほっとけよ、委員長!」
小宮は委員長に声を荒げて言ってから机に顔を埋めた。
「はぁ、俺、女装かぁー」
すっかり気を落としている小宮の周りに小宮の友人達が集まって来た。
「小宮ちゃん、女装頑張れよ」
「小宮、意外と女装似合うんじゃないか」
好き勝手に言う友人達に小宮は不貞腐れた顔を向ける。
「お前ら、他人ごとと思ってふざけるなよ」
「そうは言うけど、小宮、自業自得だろ。せいぜい頑張れよ」
「はん、薄情者。俺は帰るぜ」
小宮は席を立つと、鞄を背負い、教室に残る友人達に手を振って教室を出た。
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