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虹蛇
4p
 日下部と天谷の乗る自転車は、スピードを上げて坂道を下っていた。
「なぁ、日下部、約束忘れてたこと、本当に怒ってない?」
 日下部にしがみつく天谷の腕の力が強まる。
「本当に怒ってないよ。温泉は閉鎖されちまったしさ、だから、また別の約束をしたらいいし、なっ」
「……うん」
「それにしても、天谷さぁ」
「え、なに?」
「俺との約束は忘れるのに、学校の講義のことは忘れないんだな」
「うるせぇよ!」
 天谷が日下部の背中に頭突きをする。
「ぐあっ、ちょ、いてぇ! お前、危ないよ! 自転車からおとすぞ!」
「ふん」
 天谷は口を尖らせた。

 大学の門の前で日下部は自転車を止める。
「グループチャット入ってる。ちょっと待ってて」
 日下部はジーンズのポケットからうるさく鳴るスマートフォンを取り出す。
「浅山からだ」
「浅山って誰?」
 天谷が日下部のスマートフォンを覗き込む。
「天谷さ、マジかよ。浅山、この前お前と話したろ。同じ講義取ってるやつだろ」
「覚えてない」
「お前、それだから……あっ!」
 日下部が上げた声の大きさに天谷の体がビクリと振るえる。
「天谷、残念なニュースだ」
「何?」
「ん」
 日下部が天谷にスマートフォンの画面を見せる。
 天谷はグループチャットの浅山からのメッセージを読んだ。

『今日、講義休みなの忘れてて間違えて学校来ちまったわ。なぁ、暇してる奴いたらこれから遊び行かね?』

「天谷、講義は無い。俺たちも浅山と同じ穴の狢だ」
「同じ穴の狢という言葉が今の俺たちに当てはまる言葉として正しいのかはわからないが、色々悪かったな、日下部」

 晴れていた天気が急に曇りだした。
 午後は雨になりそうだ。
 日下部と天谷は傘を持っていない。

「えっと、どうしよう」
 日下部はスマートフォンの画面と天谷とを交互に見て言った。
「ああ、いいよ、浅山と遊び行ってきたら? 俺、昨日の服のままだから、着替えなきゃ、だから家に帰るし」
 天谷は平然と言う。
「いや、でも、天谷」
「いいって言ってるじゃん、俺、家帰るから」
「でも」
「本当、俺の事はいいからさ、せっかく誘ってくれた浅山にわるい……」
「いや、あのさ、天谷」
 天谷の話を遮り、日下部が言葉を紡ごうとしたその時、「お、日下部じゃん!」と誰かが日下部に声をかけてきた。
 日下部と天谷が声のする方を振り返ると、そこには、浅山の姿があった。
「日下部、あ、天谷もいるじゃん。二人とも、ここで何やってんだよ?」
「いや、俺たちも講義無いのを忘れてて学校来ちゃってさ」
 浅山の問いに、癖のついた髪に触れながら答える日下部。
「そうだったん? お前らも間が抜けてんなぁ!」
「お前には言われたくねぇよ」
 日下部は笑いながら言う。
「ははっ、だな。なぁ、日下部、グループチャット読んだよな、遊び、行くだろ?」
「ううーん、えっと……」
 日下部は苦笑いを浅山にして見せてから、天谷に視線を移す。
 天谷はハッとした顔で日下部と浅山を見る。
 天谷は明らかに気まずそうな顔をする。
 浅山は、そんな天谷を見て明るくこう言った。
「天谷、お前も一緒に遊ばね?」
「え」
 天谷の体が震える。
「カラオケ行く予定なんだけど、戌井と鵜飼、江波に小宮も誘ってるんよ。天谷も来いよ」
「えと、俺は……」
 言葉を詰まらせる天谷に、浅山は不審そうな顔をする。


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