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虹蛇
9p
「バカなことした。榎本も、お前に彼女がいたら諦めると思ってさ、天谷の写真使って。バカな嘘ついて、余計に榎本を傷付けて」
「お前はバカだから仕方ないよ」
「失礼だな。まあ、おっしゃる通りだけど」
 小宮は自傷気味に笑った。
「俺さ、日下部は、絶対にまだ誰とも付き合わないと思って。今のお前には誰が告白しても無理だって。だから、嘘をついて彼女にお前を諦めさせようとして……。多分、相手が榎本じゃなくても、俺はそうしたかも」
 小宮の台詞に日下部はピクリと、片方の眉を動かす。
「おい、小宮、なんで俺が彼女と付き合わないと思った? なんで、俺が誰とも付き合わないと思ってるんだよ」
 そう言って日下部はブラックコーヒーの缶の飲み口を唇に当てて、そして中身が空なことを思い出して缶をテーブルに置く。
 小宮は息を吸い込むと日下部の問いに答えた。
「だって、お前、ずっと……ずっと綾のこと考えてるだろ。お前は綾を忘れられないんだろ」
「は? 小宮、何言って……」

 日下部の視界が揺れる。

 小宮は熱のこもった様子で話を続ける。
「俺だって、お前が誰か好きな子を見つけて付き合ってくれたらと思うよ。お前が誰かと幸せになってくれたらって思うよ。でも、お前、綾を忘れられないんだろ? そんなお前と榎本との橋渡しなんて出来るか? お前は榎本を大事にできないだろ! 誰も大事に出来ないだろ!」

 小宮の後ろにゆらゆらと、日下部と小宮の中学の同級生、綾弓蝶が立っている。
 日下部は綾を見つめる。
 綾は微笑を浮かべて微笑んでいる。

 永遠に紺色のセーラー服姿でいる綾。
 冷たい白い肌の、美しい綾。

「お前は綾に取り憑かれてるんだよ!」
 小宮は声を荒げる。
 小宮の言葉は溢れるように止まらない。
「お前が誰かと付き合うんなら、まだ、嵐とか根性あるやつとの方が……」

『日下部くん、私と一緒に遊びましょう』
 綾が甘い声で日下部を誘う。

 綾の白い腕が日下部へ伸びる。

「もうわかった。話は終わりだ」
 はっきりした声でそう言って日下部は勢い良く立ち上がった。

 日下部が立ち上がった瞬間に綾は消えた。

「小宮、余計なお世話はもうよせな」
 日下部は優しくそう言うと、お茶の空き缶を手に取り、小宮に背を向けて、歩き出す。
「日下部、どこ行く気だよ」
 小宮は日下部の背中に言葉をかける。
 日下部は一度、立ち止まり、「天谷んとこ。後でな、小宮」そう、小宮を振り返らずに言った。

 日下部は歩きながらゴミ箱に空き缶を放り投げ、カフェテリアを去った。

 残された小宮はおしるこを飲み干すと、強烈な甘さを噛み殺し、ため息を吐いて宙を仰いだ。




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