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虹蛇
3p
 天谷は日下部から目をそらし、ゆっくりと日下部から体を離し、立ち上がった。
(ああ、こいつ、身長高いよなぁ)
 日下部は天谷を見上げて思った。
 日下部は天谷より少し身長が低い。
「日下部、お早ようじゃなくて、もう遅ようだ」
「え、そうかな」
 日下部はスマートフォンで時間を確認して首をかしげる。
(遅いか?)
「そうだよ。今日、十時から講義があるだろ。今、九時十五分だよ、お前がなかなか起きないせいだ。ここを三十分には出ないと遅刻だろ。この講義、今日が初めてなんだから遅刻はよくないだろ」
 言いながら、天谷は着ているTシャツを脱いで自分の服に着替えている。
 天谷は、シャツのボタンがなかなか止められずに舌打ちを繰り返す。
 露出した天谷の肌はとても白い。
「遅刻はよくないとか、大学生にもなって真面目だな」
「お前は大学生にもなって不真面目がすぎるな。早くベッドから降りろ、大学に入学してまだ五日しか経っていないのに遅刻しても大丈夫と思ってるようじゃあ、就職してからやっていけないぞ」
「はぁ、大学に入学したばかりで就職の事を考えなきゃならないなんてやってられんな、だが、しかし、将来のためか」
 日下部はしぶしびとベッドから降りた。
 天谷と日下部は同じ大学の一年生で同じ学部である。

 日下部はのんびりと、天谷はテキパキと大学へ行く支度をする。



「天谷、食パン食べるか? 駅前のパン屋で買ったやつあるぜ」
「パンなんか食べてる場合か。早く着替えろよ、遅刻するぞ」
「お、天気予報、午後から雨だって、外、あんなに晴れてるのになぁ、傘持ってくか?」
「テレビ、消せよ、もう着替えろ、日下部」
「大丈夫だって、自転車で飛ばせば十分で学校着くからさ、お前も乗せてやるから。パン、天谷の分も焼いてやるな、目玉焼きのっけよう」
 のんびりとしている日下部の様子に天谷はやれやれとため息をつく。
「あ、ベーコンある。ベーコンも焼こ。お、レタスも少しあるな」
 冷蔵庫を開けて喜んでいる日下部に、勝手に焼いてろよ、と天谷は言う。
 天谷はすっかり支度を終わらせていて、ソファーに座ったまま日下部を見ていた。
「天谷、さっきからなんだよ、ずっと俺のことを見てさ、あ、俺が着替えるところが見たいとか?」
 両手に卵とベーコンを持って日下部がニヤリと天谷に笑いかける。
「ば、ばかっ、そんなわけあるか! お前、何考えてんだよ! ばか! ばか!」
 そう言う天谷の顔は、火に当たったように赤い。
「怒るな、冗談だ。ちゃんと支度するから待ってて、遅刻はしないから」
 日下部は笑う。
(ふんっ!)
 天谷は頬を膨らませた。
 テレビから女性キャスターが今日のトピックを伝える声が聞こえる。

『今日のトピック、大型温泉施設、突然の閉鎖について……』

「この温泉、大学入ったら、休みに泊まりで一緒に行こうって言ってたやつだよな、屋上から見える月が綺麗って評判だった、閉鎖だって、残念だな」
 日下部が目玉焼きとベーコンを焼きながら言う。
「ああ、そんな約束してたっけか。ここの温泉のことだったんだ」
 天谷はテレビに映る閉鎖されるという温泉施設の映像を横目に見る。
 都会の高いビルの中にある温泉施設で、屋上の大浴場が評判であったようだが、昨日、閉鎖されると発表があったようだ。
(温泉の約束とか、忘れてた。ヤバイな、俺)
 天谷はテレビから視線を移し、日下部の背中を見る。
「なあ、日下部」
「ん?」
「ごめん」
「は、何、謝ってんの? あ、もしかして温泉の約束、忘れてたとかかぁ?」
「ごめん」
「はは、マジか。罰金だな」
「ごめん!」
 オーブトースターが音を鳴らす。
「パン、焼けたな、食おうか、天谷」
 日下部がニヤリと笑って振り返った。




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