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虹蛇
9p
 天谷は大学が終わるまで、結局は一度も日下部と会話らしい会話をしなかった。
 日下部は天谷と話そうとしたが、天谷は逃げてしまった。

『天谷、あのさ』
『そろそろ講義始まるから、後で』

『天谷、話しあるんだけど』
『ごめん、トイレ行っくる、後にして』
『じゃあ、俺も一緒にトイレ行くよ』
『一人で行けるし!』

『天谷、買い物のことだけど』
『俺、行かない。なんか頭痛くて、朝からなんか……あ、だから、ちょっと一人にしてくんないかな』
『大丈夫か?』
『大丈夫だから、向こう行ってろ!』



「あああああーっ! 何やってんだよ、俺は!」
 一人きりの帰り道、天谷は道の途中で立ち止まり、頭を両手で押さえて叫んでいた。
「俺、最低だろ! ああーっ! もう、俺ってば、下の下!」
 天谷は散々喚いた後、下を向いてとぼとぼと歩き出す。

 ため息を撒き散らかす天谷の視界に不意に黒猫が入る。
 黒猫は道の真ん中に座り込み、天谷の方を見ていた。

「お前、学校にいたやつ?」
 天谷は黒猫に近付くと、しゃがみこみ、黒猫の背を撫でた。
 黒猫は天谷に撫でられると可愛らしく鳴き声を漏らす。
 天谷は微笑んだ。
「よしよし。お前は俺と違って可愛いなぁ」
 天谷は優しく黒猫を撫でる。
 黒猫が天谷の足にじゃれつく。
 天谷は微笑み、そして、ふと、顔を上げた。

 天谷の見る空が異様に明るい。
 今、夕日が落ちようとしていた。

 天谷のスマートフォンが鳴る。

 日下部からメールが入っていた。

 天谷は日下部からのメールを読み終えると、ふわりと笑って「あのバカ」と呟いた。

 天谷の顔が夕日色に染まる。

 天谷は立ち上がり、スマートフォンを操作する。

「もしもし、日下部っ……」

 黒猫が膝に乗り、天谷に顔を擦り付けてニャアと鳴いた。
   













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