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追慕
03


遠くの船は先程から慌ただしく揺れていた。爆発音やら発砲音やら怒鳴り声やら、とにかくなにかと大変そうだな、そう他人事のようにエースは船を見つめながら考えていた。
そりゃ他人だし、ましてや他の海賊船なんて敵みたいなもんだ、ただその敵船はいま自分達に歯向かってくる様子もなくただただパニクっているようにすら見える。
おいおい一体何してんだよ、大丈夫か。そう小さく呟いてみてもそれはやはり所詮他人事だった。


「ねえねえあの船、何が起こってると思う?」


そう興味ありげに聞いてきたシオンは、所謂野次馬のようだ。

「さあ、火事とか?いや火事だと発砲しねーか。」

「そうだよ、エースのばーか。」

いたずらに笑うシオンにこんにゃろうと思いつつ、この笑顔、やっぱり好きだなと感じる。
非日常なことなんてこの海では当たり前の中、エースにとってこの笑顔は安心できる心の拠り所だった。
彼女の笑顔を前にすると、あらゆる事も色あせて見える。いまこうして遠くで危なっかしく揺れている船でさえ、もうどうでもいいのだ。


「何エース、顔にやけてるよ。」

「べっつにー。」

「変なのー。あれ、なんか近付いてこない?」

そう言われて見てみれば確かに、船の方向からなにやら黒い物体が近づいてくる。

「鳥か?鳥にしちゃでかくね?」

それに凄い勢いだ。流石にこれは緊急事態だと感じたのか、既に船上ではみながいつでも動き出せるように構えその一点に集中していた。


大きな翼の羽ばたきで船が揺れる。一気に接近してきたそれはぶつかるスレスレで通りすぎていったがその瞬間、黒でまとった何かが船に降り立った。

人のようだか仮面を被っているせいで顔が見えない。なにやら女の人を抱えているが意識はないらしく、仮面の人物は彼女を静かに甲板に下ろした。次の動作に皆の意識が向かれる中、当の本人はなんの躊躇もなく肩に担いてた袋から大きな矢を取りだし、それに火をつけた。一瞬にして船を殺気が包む。ただ一人、仮面の人物だけが恐ろしく静かに足を踏み出す。弓にセットされた矢が指す方向は、いつの間にか近くまできていたあの騒がしい船だった。

何もかもが奪われていた。音も、時間も、意識さえも。気づいたときには矢は引かれ、遠くで船が大きく燃えている。ただただ視界に映る赤だけが眩しく揺れるのに、それを背後に弓を下ろしゆっくりと振り返るその人物は、なんの光も映さない、吸い込まれるような闇だった。




おかしい。

動けないのは恐怖のせいか、

身体が熱いのは炎のせいか、














衝動と動揺

(じゃあ一体、この感情は、)







まえつぎ

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