ありがとう続編 昼休み、なんだか気分が冴えなくて空を見に屋上に行った。 「気持ちいい…」 雲一つない空と少しだけ吹いている風に心が安らぐ。少しだけ寝てしまおうと思い、給水塔で日陰になっている場所に行った。けれど私の足は止まった。そこには仁王くんが居た。仁王くんはすやすやと昔から変わらない寝顔で寝ていた。手に、何かを持って。 「何持ってるんだろ。」 音をたてないように少しだけ近づいてみる。その手に持っていたのは、青い紙飛行機。私があの日空に飛ばした紙飛行機だ。 「なんで仁王くんが持って…」 有り得ないと思った。彼に届いたことも彼がそれを持っていることも。呆然とそこに座りこんでいると仁王くんが起き出した。やばいと思って逃げ出そうとすると、突然腕を引っ張られる。 「待ちんしゃい。」 少し寂しそうな目をした仁王くんがそこには居て腕は振り解けるくらいの力でしか掴まれていなかったのにどうしてか振り払うことが出来なかった。 「な、に?仁王くん。」 「これ折ったのお前さんじゃろ。」 そう、とはすぐに言えなかった。あれは仁王くんに別れを告げるだけのただの自己満足で折ったものだったから。隠すようなことでもないけど、何故か知られちゃいけないような気がした。 「ち、違うよ。私が折ったものじゃない。」 「うそ。」 なまえは嘘をつく時上を見るんじゃよ。彼は優しげに呟いた。そんな癖が自分にあるなんて気付かなかった。同時に彼はなんでそんなことを知っているのだろう。もうずっと話してないのに、目も合わせてくれない姿すらも見せてはくれないのに。 「なまえ、」 仁王くんは無理して笑った顔を作って私を呼ぶ。昔から変わらない仁王くんが泣く前の表情だ。 「仁王くん、泣かないで。」 「何を言っとるんじゃ、泣いてなんかおらん。」 「ううん、泣くよ。」 ほらね、涙が出てきた。仁王くんの切れ長の目からぽろぽろと綺麗な水滴が流れる。それを手で拭ってあげるのは何年ぶりだろう。私達は何一つ変わってないのに関係だけが変わってしまった。 「泣き虫は変わらないんだね。」 「うっさい、なまえが俺を泣かすのが悪いんじゃ。」 「私がいつ仁王くんを、」 「それ、仁王くんちゅうの嫌じゃ。」 俺がなまえん事避けてたからそう呼ぶようになったんじゃろ。わかってた、諦めもした。じゃけど今なまえと話して一緒にいて、嫌じゃって思ったぜよ。嫌じゃ嫌じゃと泣く仁王くんは昔から変わらない私の知っている雅治だった。 「ごめんね、雅治。」 いつの間にかなまえと名前で呼んでくれていた雅治に気が付いた。私だってそうだ、雅治が名前で呼んでくれなくなった時、すごく悲しくなったことを覚えてる。 「なまえ、なまえ。」 ぎゅうといつまでも変わらない子供体温の雅治を抱き締める。それだけで今までの溝が嘘だったかのように昔に戻れたような気がした。 「あんね、なまえ。聞いて欲しいことがあるんじゃ。」 「なに?」 「ふふ、あんね。」 好きぜよ、とその見た目に似合わず可愛いらしい告白が嬉しかったのは私も同じ気持ちだからかしら。 またね (今度は恋人から始めましょう) ← [戻る] |