明日はどこから
3
「……また、キス…すんの?」
「………だったらなに」
「なあ、あのさ、俺が馬鹿みたいに口開いてたからキスしたって言ってたじゃん」
「ああ」
「……えーと…ぶっちゃけ、さ。キスって、そういう風にするもんなの?」
「……あ?」
「いや…その、恥ずかしながら、俺全然そういうの知らなくて。昨日の押し倒し…ってか、あれも、よく意義が分からないから…」
「…………」
「だから…お前が教えてくれるなら、それもいいなー、とね…昨日は安易に考えたけども……ね。どうやら俺はそれ以前だったみたいだし」
「…の前に性別は気になんねえの」
「え?あー、だって…女ってまずどんな生き物なのかよく分かんないし、同じ人間だし…それにそういうのに特に偏見無いから」
「はあ…」
「とにかく俺は今まで幻想でしかそういうモンを考えたことなかったから、…本当はどういう風なのかなー……って」
俺は恋愛する上での行為の全てを自分には関係無いと、今まで「多分こういうもの」と曖昧に処理してきた。
それだって中身などほとんど無く、キスだって実際言葉でしか知らなかった。
だから昨日、キスが、唇と唇をあんな風に合わせることで、あんなに柔らかい感触がするものだと初めて理解した。
…百聞は一見に如かず、というか。
なんだか自分が情けなくなってくる。
こんな歳下の奴でも知ってることを、倫に会うまで知り得なかったってことだ。
「…あんたは何のために、俺にそんなこと聞くの?」
あと少しで鼻がくっつくような距離で、倫は言う。
氷のような目をして俺を見据えながら。
「…………え」
「あんた、俺に何されても流されてたじゃねぇか。だったら何のために、意味なんて知る必要があんだよ?」
「………………えっと」
「あんたは、なんで自分が情けないって思うのか、分かってんの?」
分かってんの?
…ああ、分かるさ。
俺が今一番後悔していること。
そして、今の俺に必要なこと。
何のために、こんなことに悩むのかって。
「…恋を、するためだ」
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