明日はどこから 8 施錠をしているとき、ふと思う。 …あいつは、本当にここへ帰ってくるのだろうか。 だって、いや、そう思うだろ普通。 何か気に食わないことが元居た寮であって、たまたまふらついてたところを真尋さんに拾われて。ついでに俺の部屋に来て。 何もかもが倫の気分次第に成されてきた気がするのだ。 昨日の今日であいつの胸中が掴めたんなら、こんなに疲れはしない。振り回されっぱなしだ。 今日、学校に行ってたまたま良いことがあったら、倫は大人しく寮へ帰るんだろうか。 そんで、これからずっと、俺とは縁の無いところで生きていくのだろうか。 一期一会、って四字熟語があるけど、本当にあいつは一度きり、俺の目の前を通り過ぎただけの存在なのかな。 …そうだとしたら、すごいなあ、って思う。 一瞬でも俺に新しい感情を与えていった。 一瞬でも俺と気持ちを通わせた。 一瞬にして、そいつは色とりどりにこの日差しの空間を飾っていったんだって、今、改めて思う。 なんてすごいことなんだろう。 …少しどぎつい色味に思えるけど。 五條倫は生まれた時からそういう人間だったのか。 それとも俺が………… …お、れ…が?なんだ? うまく言葉にできない。 きっと語彙力の限界だろう。南無三。 パソコンの前に戻って、ぱしっと頬を叩く。 さて、近見さんの激励も受けたことだし! 頑張るぞー! キーボードを打ち始めた俺の心中に、嵐が過ぎ去った後のような空洞がぽつりと出来ていたことに、俺は多分、気づかない振りをしていたんだろう。 [*前へ][次へ#] |