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甘い毒を、口移しで君に1
「なんなのよふざけやがってなんなのよ…!」

ぶつぶつと呟きながら、ハチは倉庫の通路を走り続けていた。
雲雀が先に行ってしまったことや、勢いよく倉庫内に突入したはいいが敵がおらず誰もぶっ飛ばせていない状況から、彼女のストレス値も順調に上昇している。
しかしそれでも、ハチの高い聴覚と野生の勘が、彼らの殴り合いの音らしきものを聞き分け、そこに向かって真っ直ぐに駆けていく。

――あそこね…

目の前に見えたドアを、一挙動で蹴り開ける。
突入した瞬間、すぐに周りを見回して、人の位置を確認する。
しかし、そのほとんどが地に伏している状況に、ハチはちっと舌打ちをする。
こんなことなら、こいつらの援軍を待ってた方がいいかしら――と、そんなことを考えていると、鈍い鈍器の音が聞こえた。

「が…!」

少し離れた場所からでも聞こえる、骨が軋むような音。
体をくの字に折り曲げるのは高校生の、恐らく今回の事件の実行犯であるはずの男で、目をこれでもかというほどに見開いて、胃液か唾液か分からない液体を口から吐き出す。
しかし、それでも加害者は止まらない。
鳩尾を抉るトンファーにそのまま力を加え続け、勢いよく振り抜く。

「ちょ…っ」

防御すらまともに取れず吹き飛ばされ、こちらに突っ込んでくる男を、慌てて回し蹴りで撃退する。
鳩尾にトンファー、米神に靴をめり込まれた男は、そのまま地面に転がり、動かなくなった。
その一撃でそれまでのストレスの一部を発散したハチは、だが表情はどこか気に入らなさそうに、眉間にしわを寄せながら、加害者――こと雲雀に向き直る。

「ちょっと、こっちに飛ばすんじゃないわよ」
「あぁ、いたの」

恐らく部屋に突入した時点で気付いていたのだろうが、そう言われると腹が立つ。

「その男と一緒に気絶すればよかったのにね」
「……あんた、あたしをナメてんの?」

メリケンを装着した拳を握りしめると、雲雀は興味なさそうに目を反らした。

しかし、と思いながら、改めて部屋の中を観察する。
敵は、今の男を合わせて4人。それらを同時に相手をしながら、一太刀も浴びることなく、この喧嘩に勝利したのだ。
雲雀の様子を伺えば、傷どころか息を乱してすらいない。
やっぱり化け物よね、と心の中で毒づきながら、もう一度雲雀に向き直った。

「…で?敵はこれだけなの?」
「?……もう一人いた気がするけど…気のせいかな」
「もう一人?そういえば見張りの奴を一人ぶっ飛ばしたけど」
「……まぁいいや。どうせ大したことない奴だし」

頬についた血を拭い、雲雀が冷酷に吐き棄てる。
ちなみにこの血は、当然返り血だ。
ハチもそれを分かっているから何も言わず、そのかわりにふぅと溜め息を吐いた。

「…じゃあ結局のとこ、美味しいトコはあんたに全部持ってかれたってわけね。ふざけてるわ」
「問題はないはずだ。狩りは早いもの勝ちだよ」
「否定はしないけど。…あ、そういえば七歌は?」
「……」ぴくり、と微かに眉が反応したが、すぐに無表情になり「知らないよ。避難でもしてるんじゃないの」
「ふーん」

二マリ、と笑う。
ハチといえど、雲雀の表情の変化に気付かないわけではない。
意外と分かりやすいのよねー、とニヤニヤしながら距離を詰めると、心底嫌な顔をした雲雀にふいと視線を反らされた。

「で?結局言えたわけ?例のアレ」
「……」
「言ってないのね、ふーん」
「五月蠅いな。咬み殺すよ?」
「ふん、やれるもんならやってみなさい」

屍(生きているが)が転がる中で、二人武器を構える。
びり、と痛いほどに感じる相手の殺意に心地よささえ覚えながら、相対。
その時、静まった室内、部屋の外から、複数の靴音が聞こえた。

両者とも構えを解いて、そちらを見やる。
敵だと分かっているならそのまま待ち構えるところだが、気配から、そうでないことは分かっていた。

「あんたね」

ふいにハチが口を開いた。
面倒だと思った雲雀も、仕方がないのでそちらを向く。

「ちゃんと言いなさいよ」

さっきまでの、どこか小馬鹿にしたような声色ではなく、至って真面目な声で、ハチが言う。
嫌だ、と言おうと開いた口は、がちゃりと開けられた扉によって封じられた。

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