そして林檎は紅く染まる4 なんでこんなことになってるの。 そんな疑問は七歌の中から消えず、人知れず溜め息を吐いた。 「よし、んじゃ電話しようぜ」 「だからそれを誰がするかで揉めてんだろ」 「いちいち面倒だな…お前がやれよ、それでいいだろ」 「よくねェ!だいたいそんな事言うならテメーがやれや!」 「おれは嫌だよ…口下手だしよ…」 「もうなんでもいいから電話しようって」 「だから誰が電話するかが問題なんだよ!」 この終わりの見えない会話は七歌が来てから、かれこれ30分近く繰り返している。 もちろん七歌は参加していないが、聞いてるだけでもいい加減疲れてくる。 しかし、この会話と無駄に過ぎる時間のおかげで、自分が置かれた状況を判断することはできた。 どうやら、彼らは並中風紀委員及び雲雀恭弥に何やら恨みがあるらしい。 その復讐として彼らを呼ぶための、自分は所謂"エサ"にされたわけだ。 話を聞く限りでは人質として扱う気満々らしいが、雲雀が七歌を"人質"として見なしてくれるかが心配どころだ。 むしろあっさり見捨てられそうだ。 君に人質の価値はないよとか言われて。 「じゃーこれはどうだ?人質に電話してもらうっての」 「おぉそれはいいな!なんかそれっぽい」 「んじゃそれで決定でー。…で、電話番号は?」 「知らねーよ。誰か調べてないのか?」 「ガッコに電話すりゃ早いんじゃ?」 「つーかあの人質が彼女なんだから番号知ってんじゃねーの」 「その手が合ったァ!んじゃその方向で!」 「ってわけで」 え?と顔を上げる。 にこにこと無邪気な笑顔を浮かべた男たちが、こっちを見下ろしていた。 心の中で溜め息を吐いて、携帯を取り出す。 「…どうぞ」 「いやいやアンタがかけるの」 「……はぁ…」 というか普通こういう場合って、拘束とかするもんじゃないんだろうか。 話の流れ的に自分の携帯を使うことを察していたので、先にバッテリーを抜いておこうか迷ったが、結局言う通りにする。 なんというか、間の抜けているというか、本当に悪い人に見えないというか。 そんな義理がないことは分かっているが、なんとなく心配になってしまう。 「いいか、場所はだなぁ…」 そもそもなんでこんなことになったんだろう。 ちょっとした用事があって家に電話を掛けようと、校外に出たのが運のツキ、というやつか。 助けに入ってくれた風紀委員の人は目の前でぶっ飛ばされてしまったが、あの人は大丈夫だろうか、とふと思う。 「……じゃあ、電話しますね」 「よぉし、早くやれ!いいか、絶対間違えるなよ、絶対だぞ!」 「はぁ…」 ぴ、と端末をいじって、電話帳から雲雀恭弥の名前を引っ張り出す。 そういえば、自分から彼に電話を掛けたことは、なかったような気がする。 ふぅ、と小さく息を吐いて、意を決して、発信ボタンを押した。 「………」 「どうだ?出たか?あの男は出たか?」 「…おいお前、少し黙ってろよ」 「うるせーな、俺はさっさとあいつをぶっ飛ばしたいんだよ」 うるさいのは貴方達です、と言いたいのをぐっと堪える。 視線が自分に集まる中、携帯電話から流れる無機質なコール音を数えながら、意識をそちらに集中させる。 一回、二回、三回、四回、五回、……。 「…出ねーな」 「あの、留守番電話になったんですけど…」 「……どうする?」 「どうするも何も…つーか、え?あのヤロウは彼女のこと心配じゃないのか?」 「いや、むしろ必死で捜してて携帯に気付いてないってパターンかもよ」 「どっちでもいいだろ。とにかくどうやってアイツを誘い出すかだ」 「やっぱ学校に電話するか」 「学校に電話して"雲雀さんはいますか?"って聞くのかよ。誰がやるか!」 「だからそれは人質に頼んでだな…」 [*前へ][次へ#] |