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髪長姫の憂鬱1
今日もまた放課後がやってくる。
鐘の音と共になりを潜めていた苛立ちがまた募ってきて、恭弥は思わずこめかみを押さえた。

七歌はまだ学校に来ていないようだった。
あの倉庫でのやりとりの次の日から、彼女は一週間休み続けだ。
理由は風邪らしいが、やりとりの動揺ぶりからすると、あの一件が無関係とも思えない。
しかもここ数日に至っては、学校に連絡すら来ないらしい。

「…あの女、所有物失格だよ」

七歌は今頃なにをしているだろう。
もしも連絡が取れないほどに体調を崩していたのだとしたら。
ベッドの中で辛そうに肩呼吸をしていたとしたら。

そこまで考えてから思考を止める。
考えすぎだ。
そこまで辛いなら家族の誰かが連絡を取るはずだし、病院に行けばいい。

恭弥はペンを置いて、窓から外を覗く。
野球部が白いボールを必死になって追いかけている、いつもの風景。
普段なら大して気にも留めないはずなのに、今日はなぜか苛々する。
あまりにも仕事に身が入らないので、帰る事にした。

「あ、委員長。お帰りですか」
「……。後は任せるよ」

書類を持って入ってきた草壁と入れ違いざまに恭弥は応接室を後にする。
それもこれも、全て七歌が悪いのだ。
そう決め付けることにした恭弥は、足早に昇降口へ向かう。
と、そこに、

「!……」

七歌がいた。

「あ、恭弥くん…!えっと、私…あの、そのっ」
「…きみ、欠席したんじゃなかったの?」
「えっ、あっはい、そうなんですけど…」

しどろもどろになる七歌は、明らかに怪しい。
疑いの目で見つめていると、ついに観念したのか申し訳なさそうに呟いた。

「その…先生に欠席の理由を言いに…」
「……」

確かに七歌は数日の間無断欠席をしていたはずだから話の筋は通っている、が。

「そもそも七歌は、何の理由で欠席したの?」
「か、風邪で……」

白々しい嘘を吐く七歌のすぐ横を、トンファーでかすめてやった。

一緒にいて分かったことだが、七歌は嘘を吐くのが極端に下手だ。
もっと正確に言うなら下手なのは嘘を吐く事ではなく、感情を隠すこと。
思った事がすぐ顔に出てしまうのだ。

そんな時はこうやって少し脅してやると、

「あの…旅行に行ってたんです…」と、本当の事を喋りだす。
「ふぅん。どこに?」
「え…えっと、海外……インドとか、そっちの方へ…」
「本当に?」

トンファーをちらつかせると、七歌はがくがくと頷いた。

「ほ、本当です!
 お土産買ってきましたから、明日こっそり持っていきます…」
「いらない」
「い、いらないって…そんな」
「七歌」

名を呼ばれて顔を上げた七歌を壁の方に突き飛ばした。
背中から壁にぶつかり息を詰まらせる七歌の苦しそうな表情に気付かないふりをして、顔の両横に手をつき逃げ道を封じる。

そして、自分の唇を強引に七歌のそれに重ねてやった。

「ん…っむ!」

舌をねじ込んでやれば七歌は若干抵抗するが、壁との板ばさみで恐らくどうにもならないはずだ。

「…ふ」

どちらからともなく声が漏れた。
キスはいよいよ激しくなり、腰が砕けて壁にもたれて座り込む七歌の頭を押さえ、貪るように口内を犯す。
七歌はすがるように学ランにしがみついたまま、しかし抵抗はせず、なすがままだった。
しばらく好き放題舌を絡めた後、解放してやる。

「…っは…きょ、や…くん……?」

ぐったりと壁に寄りかかったままこちらを不思議そうに見てくる七歌の手に指を絡める。
顔を近づけ耳元で囁くように、聞く。

「君は…僕にいくつの嘘を吐いているの?」

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