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Bunny barney (長編)
01

 ――昼。真選組では、殆どの隊士が食堂に集まり昼食をとっていた。土方副長はマイマヨネーズを手に丼にかけ、他の隊士達が犠牲になった料理を心中で弔う。そんな、いつもの日常。土方副長と問題を起こし隊舎を破壊したがる沖田一番隊隊長は姿を見せず、至って平和な食堂内の扉が開き、そしてその安寧は崩れた。

入ってきたのは一人の少女。脱色したような肩までの金髪。スタイルの良い体に派手な顔立ち。濃いアイメイクで長いまつげとアイライナーに縁どられた瞳は、カラーコンタクトを入れているのか目に痛いオレンジで、気が強そうな表情を作っている。隊服の第一ボタンをだらしなく外し、女子隊員のみ許可されているスカートはかなり短い。そのピンクのグロスでてかてかと光る厚めの唇が開いた。

「マジめんどいんだけどぉ〜」

 彼女を一言で表すなら――そう、ギャルである。食堂で定食を大きなキンキンする声で注文し、そして辺りをキョロキョロと見渡す。誰かを探しているようだ。どうか絡まれませんように、隊員はさっと彼女から顔を背け、ひそひそと言葉を交わす。

「チッ……声がでけェんだよクソ女」
「全く、なんでアイツみたいなコネで入ってきたような奴がデケェ顔をして……」
「剣技もここじゃ最底辺の癖によ……」

「ん〜? 誰かあたしのこと何か言った?」

 食堂内に響き渡る舌っ足らずでカンに障る声に、殆どのものが表情を歪めた。メシが不味くなる、と出て行ったものも数名。明らかに、少女はこの食堂内で歓迎されてはいなかった。不穏な空気の最中、彼女は探し人を見つけたようで、トレー片手に顔を綻ばせた。

「土方副長〜、昼食、食べ終わったら来いって近藤局長が呼んでましたよぉ」

「あん?……シノか。あのな、いい加減、その喋り方はやめろ。気味悪ィ」

「やだ、副長ひど〜い!」

 強引に土方の隣に腰を降ろし、料理を食べ始める彼女。彼女の名前は辰巳シノ。真選組“名物姉妹”のうちの、“できの悪い方”または“真選組の強欲女”“真選組の魔女”。平隊士であるものの、良くも悪くも名前を知る者は多い。――そして、真選組の清涼剤、真選組の癒し、真選組の天使等と多くの渾名を持つ、極端に位置するもう一人は――。

「もう、お姉ちゃん、こんなところに居たのね」

 腰まで伸ばした黒髪は艶やかに、隊服から伸びた足はすらりとしている。色白の肌は黒髪によく映え、困ったような表情はその美しさに愛らしさを足している。すっと通った鼻筋、何もしなくても長いまつげと柔らかそうな印象を与えるたれ目の瞳、ふっくらとした頬に細いおとがい。清純を体現したような顔立ちの少女。

 食堂内がぱっと明るくなるようだった。先程までのシノへの陰口はぴったりと止まる。皆、この少女には嫌な思いをして欲しくない――そんな様子で。

 彼女こそが真選組三番隊隊長――辰巳ユキである。

「あ、ごっめーん。ユキ。ちょっと用事言いつけられちゃってさぁ〜」

「一緒にお昼ご飯食べようと思ったのに……居ないんだからびっくりしたよ」

 シノが入ってきたユキのもとへと駆け寄る。二人は並ぶとその正反対さが目に付いた。姉妹だというのに、似ても似つかない。かたや、この場に相応しくない、金髪でがっつりメイクの今時のギャル。かたや、清純な黒髪で、たおやかな少女。彼女たちの性格といえば見た通りで、それでいて、どういうわけか仲が良い。そんな二人が有名にならない筈がなかった。

「ユキ〜こっちこっち〜」

 ニコニコと笑顔でシノが手を振ると、ユキはシノの隣に座った。

「あっ土方副長、こんにちは!」
「……おう」

 ユキはシノを挟んでその隣にいる副長に挨拶をし、二人は昼食を食べ始めた。

「ユキはお弁当〜? いっつも朝から頑張るね〜」

「そんなことないよ。朝、女中さんのを手伝って、余った分を貰ってるだけだもの。あっ、またお姉ちゃんからあげ定食? たまにはいいけど、ずーっと毎日それだと体壊すよ!」

「だっておいしいんだも〜ん。あたしはお弁当なんか作るのめんどくさいしぃ。それに、朝は髪の毛のセットとメイクに忙しいから〜」

「もー……しょうがないなぁ。ほら、この和物だけでもあげるよ。ホラ食べて」

 鋭い視線がふたりに注がれた。

「くそッ……ユキさんのお弁当を食べられるなんて、なんて羨ましい!!! 辰巳シノッ!!!」

「健康管理もばっちり……これは良い嫁さんになるな、ユキちゃんは」

「本当に。それに朝の練習もばっちり来るってんだから、ホント良い子だよ……。それに加えて、姉の方は、朝練にも顔を出さないどころか、普段の練習にも来ないってんだから。なんでおんなじ親から生まれてこうも違うかね……」

「ああ、よせよせ。姉の悪口なんかユキちゃんの前で言ってみろ。ぶん殴られるぞ。それに、あのシノもあのユキちゃんがいるからまだ大人しくしてるんだ」

「……ん。おいし〜。やっぱユキの手作りはおいしいね〜。でもさぁユキぃ、ほら、毎日同じものを食べるのがダメってんならさぁ、副長はどうなのぉ?」

 シノがちらりと土方に目をやり、山盛りのマヨネーズを見てげぇ、と気持ち悪そうに言い放つ。

「はっ……副長!! またこんなもの食べてるんですか!?」
「犬のエサだよねぇ、犬のエサ、あははぁ」

 勢いよく立ち上がり、健康について説きはじめるユキと、馬鹿にしたような顔のシノ。いきなり話題に挙げられ、尚且”こんなもの””犬のエサ”と評された土方は怒鳴った。

「人の食いもんに口出すんじゃねぇ!!」

「副長〜だってそれ食い物ですらないじゃないですかぁ?」

「あぁ、このままいくと副長は二十年以内に肥満または糖尿病になって死んでしまいます。お願いです、頭がマヨネーズになる前にその気持ち悪い土方スペシャル丼というのをやめてください」

「いやいや、もうなってんでしょ。だから狂ったようにマヨネーズを求めるマヨ中毒なんだよ。ニコ中にマヨ中、寿命縮ませすぎでしょって副長ってばウケる〜!」

「うるせェ黙ってろテメーら!!」

 こればかりは周囲も辰巳姉妹に同調して、笑い声が漏れた。

「はぁい」

 煽るのをやめて、シノは唐揚げを口に放り込んだ。
 
ユキはといえば、自分の弁当箱からぽいぽいとマヨネーズ丼に卵焼きや春巻き、トマトに立田揚げを投入する。

「仕方ないですね……じゃあ、せめてこれだけでも」

 微笑みかけるユキと、けらけらと足を組んで笑うシノ。

「そんなやつに弁当のおかず分けてやる必要もないのにねぇ」
「いいんだよ、私は毎日健康を考えたお弁当を食べてるから。副長が健康を損なったら、むしろ隊の皆さんに申し訳ないっていうか」 
「さすがユキだね〜」

 ため息をついて、じゃあ貰っておくと土方は言い、弁当のおかずinマヨネーズ丼を食べ始めた。

「くそッ……副長が、羨ましい……」
「いや、そうでもないだろ……。お前あのマヨネーズ丼食えるか?」

「……食えねぇ。いや、でも、ユキさんの料理withマヨネーズだと思えば……!」

 一方の外野では、不毛な争いや言葉が交わされていた。

 土方は、近藤に呼ばれていたことを思い出し、さっさと丼の中身をかき込むと、お前等、午後からの巡回に当たってる奴以外は道場で鍛錬があるから忘れんなよ、とだけ言い残して、煙草に火をつけて出て行った。




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