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Either Side ―とある真夏日にて―

こちらはショートノベル「Either Side」の番外編です。二人の出会いのお話になります。
ゆるーい感じですが…(笑)
それではどうぞ!






「暑い……」

相変わらずこの土地の夏はきつい。
大地を燻らす熱気はまるで自分自身が眩暈を起こしているんじゃないかと錯覚させられる。

蝉の大合唱どころか大地を揺るがす大轟音は、暑さに一段も二段も拍車をかける。

汗で張り付く制服のワイシャツが気持ち悪い。
ひたすら早足で家路を急ぐ。


ふと、後方から耳障りな音が近付いて来るのに気づいた。


……とうとう幻聴まで。
聴覚まで侵されたかと本日何度目になるか解らない溜息をつく。


「高橋ぃい〜〜〜!!!」

「へぶしっっっ!!!」

メガホンでも使ったのかと聞きたくなるような大声と共に、背中に激痛と衝撃が走った。
その勢いに身体が海老反りになる。

「ぶわはははっ! ばーか、な〜に大袈裟な声あげ……あり?」

唾飛ぶ勢いで……いやむしろ飛びまくってる、顔にシャワーのように飛んで来る。いやさすがに今の表現は盛りすぎだが。
ふと足元に目を遣れば、色褪せた学生鞄が落ちていた。
これを投げられたか当てられたかしたらしい。一体何を入れれば殺人兵器の如く重量になるのか。……今の表現も盛りすぎたか。

図々しく俺の肩に掛けられた手を乱暴な手つきで払った。

「高橋じゃない」

「悪かったですね、安東で」

キョトンとした間の抜けた顔で俺の顔を見る男。
金髪に色を抜かれたらしい頭髪はベリーショートで、一般的にアジア系の顔立ちには似合わないはずなのにこの男には妙にしっくりきていた。
身長は俺よりもかなり低い。
ジャラジャラと音を立てるほど開けられたピアスは十を越してあるだろうか。
男は……なんと言うか、見た目は思い切りヤンキーだ。
絶対に俺とは合わない人種。多分、何もかもが。

「ああ? お前、知ってる気がする」

「はい?」

「小枝子達が騒いでた。すげえカッコイイ一年がいるとかって。確かアンドウって言ってたぜ。お前だろ」

「……そんな、アンドウなんて苗字だけで判断されても」

「だってお前、カッコイイし」

なあなあそうだろ? などと言いながら俺の顔の至近距離でまくし立てる男に辟易する。
暑さでただでさえ苛立っていると言うのに、夏の暑さよりも蝉の巻き起こす轟音よりも、俺の怒りのゲージを上げる煩い男。

しかしヤンキーなんて人種は一人じゃろくに行動出来ないのに、集団になると一種異様なまでの団結力を発揮するから敵に回すと厄介だ。名前も知られているようだし……あまりぞんざいにも扱えない。適当に、だがあくまで障りないように印象に残らせないよう接してこの場を去るに限る。

「カッコイイかどうかは人それぞれ違う感覚をお持ちだと思うので何とも。では、俺はこれで。高橋さんによろしく」

最後の台詞には少しばかり鞄を当てられた時の恨みを込めたつもりだった。
相手が再び絡んで来る前に、早足で帰路へと歩を進める。

すると、つい先程と同じ、ドタドタと耳障りな音が俺に近付いてきた。

「まだ何か用ですか?」

「わぶっ」

俺が立ち止まり振り返れば、男が勢いのままに俺の背中に突っ込んだ。
本日二度目の背中への衝撃。
しかも二度目は、美味しくないも何ともない金髪ヤンキー男の体当たり。

今日は間違いなく厄日だ。

「いってぇな! 急に止まるんじゃねぇよ!」

「貴方が追い掛けたからでしょう。それで、用事は何ですか?」

努めて冷静に話したつもりだったが、男の苦虫を噛み潰したような顔を見る限り、かなり嫌な言い方をしてしまったのだろう。

男は何故か俺の背中に密着したままだ。こんなに暑いと言うのに。

「暑いから離れてくれませんか?」

「ムカつく」

「……はい?」

「ムカつくから、こうしてやる!」

「は……?」


何をされるのかと一瞬構えたが、想像した衝撃は訪れない。
俺の腰から腹の前で組まれた両手に戸惑う。ギュッと拘束されると、全身が固くなるのを感じた。

「……アンタまさか……ホモですか?」

「はぁあ?! ちっげぇよバカ! お前が離れろって言ったから、反対にくっついてやろうと思ったんだよ! ははは、ほら見ろっ! 嫌だろ?!」

「嫌ですよ。暑いですよ。そう言うアンタは暑くないんですか?」

「暑いしお前の背中汗びっしょで気持ちワリィよ、くそ」

……何と言うか。
俺を困らそうとしてやっているらしい行為で、本人の方が不快な目に合っているだなんて。



何と言うか。



「……っく、」

「く?」

「っ、ハハハハっ! ゴホッ、アハハハハ、はぁー苦しい……アンタ、バカ過ぎっ。ゲホッゴホッ」

「……何かムカつくけど、とりあえず笑いすぎじゃね?」

苦しい、思い切りツボに嵌まってしまった。
すぐにこの男と離れて帰りたかったのに、自分が笑いのツボに嵌まって相手に足止めを喰わせてどうするんだ。

解っているけど涙は滲むし腹筋は痛い。

一頻り笑って呼吸を整える為に深呼吸。
冷静になれたと自覚したその時にはもう遅かった。



「何か解んねぇけど、お前見た目よりずっと面白いな! なぁ、お前んち案内しろよ。ついでに麦茶飲みたいし」

目をキラキラさせながら周囲をうろちょろと幼児のように動き回るこの男を前にして、気付けば俺は何故か、我が儘な要望をすんなり受け入れていた。

自分でもかなり不思議だ。
面倒事は一番嫌いなのに。この面倒事の塊のような男を、もう少し知りたいと思ってしまった。




「うちの麦茶の味と違うな」

「要らないなら下げますが」

「要らないなんて言ってねぇだろ、本当捻くれもんだなお前!」



会話の中で、一つ上の先輩だと言うことと、男が「橘 耕平」と言う名前であることを知った。



そんな中学一年のとある真夏日。



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