Text 彼の場合 ※ヒカリとサトシ 「…ごめん」 「…」 「おれ、ずっと前から気になっているやつがいるんだ」 「…」 「…ほんとうに、ごめん」 「…」 「…」 「…ルアーの、ひと?」 「…」 「…」 「…ああ」 鈍感で、一途で、ばかで、それなのにこんなにも愛しくて。 そんなサトシにこれほどまで断言させるほどの、名しかしらない彼女のことを羨望した。 それはもう、ひたすら切に。 「…告白、しないの?」 「…だってあいつ、ファンがわんさかいるんだぜ?」 鈍感で、ばかで、一途で、ばかで、愛しいあんたが。 自信を持てない分野があるなんてこれっぽっちも知らなかった。 あんたのことなら何でもわかる、なんて信じていたのに。 彼女のこととなったらこんなにも怖じけづくのね。 「どうしていいか、わかんねぇんだおれ…」 きらりと彼の頬をつたう光の粒。 その姿、その想いを彼女は知らない。 だとしたらあたしは彼女の知らない彼を知っている、今はそれに縋り付くしかないのだ。 特にそんな切ない表情を見せられたこんな日じゃあ。 090826 [Back*][Next#] |