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 眩しい太陽の光に目を細めた青年は、よく聞き慣れた声に驚きの表情を浮かべる。
「……マジェスタ!?」
 周りを見れば、金髪の青年以外にも沢山の護衛人が教会を包囲していて、まるで自分が討伐される対象のようになっていた。
 驚愕した顔で立ち尽くす青年の疑問は、どうして居場所がばれてしまったのか? だろう。
 マジェスタはその疑問に答えるよう、一頭だけ放置された馬に目配せして含み笑いを漏らす。
「バレバレですよ」
 視線につられ、自分が乗ってきた馬を見たサファリは初めて失態を犯していたことに気付く。
「あ……」
 馬はもちろん城の所有物。それ以前にこの国では、白い毛並みの馬は王族しか乗ることが許されていない。しかも王族たる者が単身、街に降りるなど有り得ない話なのだ。
「閣下がご心配なされております。さぁ、城へ戻りましょう」
 ガックリと肩を落とした麗しの青年は、差し出された手を拒むことなく掴み取った。
 高級馬車に押し込まれ、あまりにもの居心地の悪さに溜め息をつくと、外の景色に視線を走らせる。
 既にこの時のサファリは、自分の失態を悔やむことのほうより重大な、背中にのし掛かる強大な人物の圧力に押し潰されそうになっていた。
 ──それはなぜか?
 あの城に戻れば愛しい人が待っているのは確かだったが、それに伴い脱走癖についてこっぴどい説教も待ち受けているからだ。
 首からさげたロザリオのことを何と言い訳しようか?
 今日の神父と話したことを正直に言っていいべきか?
 サファリには大きな課題が幾つもあったが、いずれにせよそれに対して上手く嘘がつけないため、終始、溜め息の嵐だった。
「どうかなされましたか、サファリ様?」
 後から馬車の中へ乗り込んできたマジェスタは、ただならぬサファリの雰囲気に苦笑しつつ遠慮がちに口を開いた。
「……ああ、マジェスタ。お兄様はまたお説教をなさる。もう同じことばかりでうんざり。でも何もいい方法が見つからない」
 青年の身振り素振りの大胆な動きは、それだけで自身の焦りを示している。
 しなる鞭の音で、静かに走り出した馬車に肩を震わせたのも、兄の元へ帰ることを恐れている証拠だ。
 それでも現実では確実に城へ向かって進み始めている。
 いっそ、このままどこか遠くへ行ってしまえば――そう思ってしまうが、アストロの元へ帰らないわけにもいかない。


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あきゅろす。
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