U

 古風な街並みを眼下にそびえる城は、その大きさだけでどれだけの権力を持っているのか十分に知ら示すことができていた。
 城内に入るための正門に掛けられた橋渡しもそれだけで何キロも続いており、陥落不可能と隣国から囁かれているのは一理ある。
 そして長い道のりと同じ風景、同じ草木しかないその掛け橋を、古城の最上階でぼんやり眺めていた人物は、ドアをノックする音で物思いに耽る暗く憂鬱な顔をやっと持ち上げた。
「討伐隊第一軍、マジェスタ入ります」
「……入れ、マジェスタ」
 間入れず、重い鉄扉のドアが開く音は意外にも静かで、不快な音一つたてることなく中へ人を受け入れる。
 きびきびした歩調で室内に入ってきた人物は、凛とした顔立ちにはっきりした色合いの金の長髪を束ね、この国の象徴である両剣に絡まる大蛇が刺繍されたコートを羽織っていた。美麗な顔立ちを傍目から見れば、到底討伐隊に所属しているなど誰も思わないだろう。
「アストロ閣下、ご用命とはいかがなものでしょうか?」
 閣下と呼ばれるには些か若すぎる容貌を見つめたマジェスタは、固唾を飲んで次の言葉を待ち受ける。
 そして暫く――
「……また逃げた。たった今、掛け橋を渡ってな」
 心痛な思いを顔に浮かべ、肩にかかる艶やかな黒髪を払ったアストロは溜め息混じりに悲しい笑みを浮かべ、もう一度外を見渡した。
「では、連れ戻せばよろしいのですね?」
 これが初めてではないことがアストロの言葉からもわかるが、逆に何度もその言葉を聞いてきたマジェスタは自分が何をすべきか既に心得ているのだろう。言葉に迷いはない。
「このような任、お前達のような討伐隊が行うのは不服だと思うが頼んだぞ」
「御意、アストロ閣下」
 素早く一礼をしたマジェスタはすぐさまにこの部屋を後にする。
 暗く重い鉄扉は閉ざされ、一人きりとなったアストロは変わり映えのしない眼下の景色を眺め、また溜め息を漏らした。
「……我が愛しい弟、サファリよ。なぜこの私から逃れようとするのだ?」
 捕まえても捕まえても逃げ出す弟との堂々巡りな遊びも、そろそろ三の桁に届きそうな勢いだった。
 頻繁に起こる弟の脱走にアストロの精神も身体も削り取られ、顔にはすっかり疲労の色が滲み出ている。
「サファリよ、なぜなのだ……」


[*←||→#]

2/11ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!