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 手と手を取り合い、仲睦まじくやっているうちが微笑ましい。それは自分が一番わかっていたはず。
 でも、もうそれだけでは歯止めが効かないのだ。いつ何時、愛しい者が目の前からいなくなってしまうのかわからないのだから。
「サファリ。私はお前さえいてくれたら、全てを失っても構わないのだ。地位も富も名声も……この国すら売り払っても構わない。私は――」
 囁かれる言葉を耳に入れるには、あまりに痛すぎた。これを先代の国王が聞いたらどれだけ嘆き悲しむことか。もちろんサファリとて同じ気持ちだった。こんな愛の告白を受けても、心は弾まない。ただ、どうしたことか言葉の続きが聞こえてこない。
 不審に思ったサファリは、逸らした視線を持ち上げる。
「アストロ?」
 顔を見れば、蒼い瞳の視線は一直線に胸元へ落ちていた。しかし、見てはいけないものを見てしまったかのように表情が強張っている。
 どうしてこうなったのか不思議に思うが、それを口には出さず、ふと思い当たる節にサファリの表情も硬くなる。
「ロザリオはどうした、サファリ?」
 長い前髪から覗く瞳には、問い質したい感が溢れていた。
 それもそのはず。
 駆け込み寺のように教会に通う弟が、肌身離さず大事に持っているロザリオを首にかけていないのは、熱心な信者としておかしな話。しかも先ほどまで教会にいたはずではなかったか?
「……それは」
 逃げ場のない質問にサファリは口ごもった。
「どうした、サファリ?」
 正直なことを話せばそれで済むはずなのに、なぜかサファリは話す気になれなかった。それは、兄に対して後ろめたさがあったからだ。
 何の信仰心もない兄が、自分の信仰を理解しようと苦悩しながら、それを許して高価なロザリオを与えてくれた。なのに自分は、信仰を辞めよと言った神父にあっさりとロザリオを渡し、神との縁を切った。こんな上手い話が簡単に許されるとは思えない。
「どうした。なぜ何も言わない、サファリ?」
 きつく唇を結び、視線を逸らす様にアストロは困り果てた。何か余計なことを聞いて追い詰めてしまったようで、こちらも次の言葉に詰まる。
 さて、どうやって弟の機嫌を取るか――そう思い悩んでいたが、短い考察の時間はサファリ本人からの言葉で終わりを迎えた。


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あきゅろす。
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