疲れた顔で少年を見下ろす流の声はずいぶん素っ気なかった。それにずっと眠っていなかったのか、目の下には隈を作っている。
「まずは座って」
強引に腕を引いた葵はベッドに戻ると流を座らせ、その隣に自分も腰を下ろした。
「僕は全然怒ってないんだよ、流。むしろ謝りたいんだ。僕が言った一言で、君をこんなにも傷つけた」
少年の話はもちろん聞いているだろうが、流の目はどこか遠くを見つめている。返事は当たり前に返ってこない。
「こっちを向いて僕の顔を見て」
言葉に対して素直に言うことを聞いた流は、赤眼に天使の美貌を持った少年を写した。そしてやや暫く。
「ごめんなさい」
本気で頭を下げた葵の言動に、青年は驚きを見せる。
「どうして君が謝る? あんな酷い目に遭わされて、まだ私に気があるのかね?」
「確かに酷いと思ったよ。君はあれを他の人にやったことがあるの?」
この問い掛けに流は首を振った。
あのプレイはあまりに特殊すぎて、合意を得ることは難しいだろう。かと言って強引にことを進めればただの殺人未遂者になってしまう。余程のことがない限りあんなことはできないし、やってはいけないと歯止めを効かせるのが人としての心理だろう。
「ならいいんだ。僕に対して罪悪感を抱いてるなら気にしなくてもいい。挑発してあんなことをやらせた僕が悪いんだから。君は何も悪くないし気にすることもない」
普通だったら怒ることに対しても怒らず、葵の腕は強張った流の身体を抱いた。
「僕の気持ちに変わりはない。流、君を愛してる」
言い聞かせるように、ゆっくり感情を込めて言った言葉は青年の閉ざした心を少しずつ開いた。
「……私は君になんと言っていいのかわからない」
「何も言わなくていいよ。いつもの君でいてくれたらそれでいい」
背中に回した腕を解き、肩を掴んだ葵はそのまま唇を塞いだ。
いままでの言葉もあってか、遠慮がちだった流も次第に相手を求め、自ら進んで唇を重ねた。あとは流れに沿って、いつも通り少年をベッドに縫い止めて厚い愛撫が始まる。
その姿にはもう落ち込んでいる様子はなかった。
「ただひとつだけいい?」
「なんだね?」
露出した肌をなぞる手を止めて赤眼は恋人を見る。
「あれで僕は悦くなれないから、もう勘弁してね」
調子を戻したところで、どん底に突き落とすようなことを言うのは相変わらず健在のようだ。
「心配しなくとも二度とやらないよ」
一瞬、驚いた表情を見せた流から苦笑が漏れた。
【FIN】
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