PSYCHO KILLER ]]V

「一体、何が起きてるんだね?」
 話しかけたところでまともに返事が返ってこないのはわかっていたが、刀を持つ左手から蔦のような模様が浮かび上がってきては聞きたくもなってくる。
「……も、だめ」
 色鮮やかな赤を伴った蔦柄は、まるで青年自身が血を摂取しているように首筋や左頬まで現れた。恐ろしく不思議な光景であったが、その模様は目を引く美しさだ。
 一瞬、アートのような繊細さに見惚れてしまったが、今は観賞を決め込んでいる場合ではない。
「巽殿、しっかりしたまえ!」
 気付いた時には目の焦点が合っておらず、声をかけるが全く反応がない。
 震える手から刀を離し、床に爪を立てながら荒い息を吐き出す青年はそれから激しい痙攣を始めた。
 この光景は毒を摂取した時の様子とよく似ていたが、経緯(いきさつ)が違うためにこちらは死んでしまうのではないかと不安が過ぎる。
「ああ、やだ――っ!」
 指先がでたらめに床を踊り、震える唇から苦鳴を漏らした彼は事切れるように意識を飛ばした。白目状態の眼球が痙攣しているのが凄く怖い。
 恐らくは、これが気を失うほどの恍惚感なのだろう。両足を骨折しているのにこの感度は驚嘆に値する。
 だが、これでひとまずは一件落着なのだ。あとは怪我を負わせた足を治癒魔法で治し、刀をお祓いに出せば問題はないだろう。
 長いようで短かった戦いもようやく終わりを迎え、自分の命も無事に助かったところで急に脱力感に襲われた。もう、命を狙われるのも死に目にあうのも勘弁したい。まぁ、こればかりは一概に全てこちらで回避できるものではなから、望みは薄いのだが。
「……さて、壊した石膏像と穴の開いた大理石の床、どちらが修理費を持つのだろうかね」
 辺りを見渡し、現実的な問題を直視した瞬間、軽い目眩と頭痛に襲われたのは言うまでもない。もちろん、石膏像に彼を投げつけて破壊したのも私だし、床に刀を刺して穴を開けたのも私なのだから、修理費はこちら持ちになるのだろう。我ながら不本意な出費に泣きそうだった。



 ――後日
 あの事件から日を改め、私は青年と共に刀のお祓いに出掛けていた。
 春の訪れを感じる陽気な暖かさの下、一件について何も触れないでいた彼が初めて疑問を投げかけてくる。
「聞いてもいいですか?」
「何だね」
 煙草の紫煙を吐き出したところで、私は改め深海色の髪を携えた相手を見やった。


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