PSYCHO KILLER ]]U

「いやああああああああああああ!」
 派手な骨折音が響き、普段とは逆方向に折れた足に青年は大袈裟なほどの悲鳴をあげた。
「骨が折れただけじゃないか巽殿。オーバーすぎる」
 力の入らなくなった足を離し、床を蹴って暴れるもう片方を捕らえると、同じように膝関節の骨を折る。これでもう、床を這ってでしか逃げられないだろう。
「くうぅっ! もう、許して……俺、そんな悪くないでしょ? も、いじめないでください、あああ、いたい――!」
 涙目になって呻き声をあげる彼は、これ以上の仕打ちを恐れているのか正気じゃ考えられない言葉を連発して身体を震わせている。
「君だったら痛みも快楽に変えれると思うが……さて、どうだろうね?」
 もしかしたら本当に正気じゃないかもしれない。彼に呆れた視線を送り、私はこの場を離れた。
 向かった場所は先ほどオートマチック人形がいたドアの前。そこには吸血鬼である私の食料、すなわち献血剤がある。これを拾って床に刺した刀の元へ行くと、刀身を引き抜き青年の元へ戻る。
 呪われた刀と、魅入られた青年と、血液。ようやく全てのものが出揃い、兼ねてよりの念願が叶う。
 これで一時でもまともな思考に戻り、斬りたいという欲求から解放されるとよいのだが。
「さぁ、巽殿。この刀をしっかり握っていてくれたまえ。今から血を与えるからね」
 血と汗を同時に垂れ流す顔は苦痛に歪みきっていたが、刀を与えるとしっかり柄を握り、幾分落ち着きを取り戻したようだ。
「……貴方、俺を殺すんじゃ?」
「誰が殺すと言ったかね」
 動揺する視線に投げやりな言葉をかけながら、献血剤の封を開けると中身を刀に垂らす。
 正直に言うと怪我をした私が血を飲みたい。
「生き血じゃ、ないなんて……」
「贅沢は言わないでくれ」
 死を免れ、この期に及んでケチをつけてくる顔に蹴りを入れようとしたが、目の前で本当に血を吸い始めた刀にその気は失せた。
 紙面に水を垂らしたように、刀は恐ろしい早さで血液を吸収し、刃を赤く染めていく。全く非科学的な現象だ。それに彼の表情が恍惚の微睡みに落ちている。骨折した足の痛みは忘れたのだろうか?
「あぁ、やだ! 凄く感じる――!」
 刀を持つ手を痙攣させ、身を捩って悶える姿と、理解不能なまでにおかしな言語で喘ぐところまでは辛うじて目を瞑る。だが、身体の異変のほうには目を背けることができなかった。


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あきゅろす。
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