PSYCHO KILLER ]]T

 強行手段と言ったらあまりに動くのが遅すぎたように思えるが、こちらも拾った命を捨てるわけにいかない。
 脚力に使う筋肉を集中させて床を蹴ると、異常な速度で距離を縮める。長爪を振りかざし、待ったなしの攻撃で攻めれば青年は呆気なく壁際へ追いやられ、逃げ場はなくなった。
「貴方、本気で仲間を殺すつもりですか?」
 顔面蒼白となりながらも、妙に落ち着き払った青年は深海色の髪を耳にかける。
「都合のよいことは言わないでくれたまえ。君だって私を殺そうとしたではないか」
 彼は意外と、死の瀬戸際に立たされると冷静になるタイプなのかもしれない。迫る命の終わりに覚悟を決めているのか、あるいはまだ助かると思っているのか――
「まさか、本気だったと思ってるんですか!?」
「あれが冗談に捉えられるほど、私の心は寛大ではない!」
 突きつけるように繰り出した爪をかわされ、頬のぎりぎりを掠って壁にめり込むと、容赦ない膝蹴りが腹部に迫る。
 それを右手で受け止めて壁から爪を引き抜くと、間入れず頭を掴んで横に投げ飛ばす。
 重心を失った身体は数メートル先に吹き飛び、石膏像の一つに激突した。
 自分で粉砕した石膏の破片にまみれ、あらぬ体勢で落下した彼はすぐに立ち上がろうとするが、再び体勢を崩して倒れ込む。
 頭を強打しては無理もないだろう。
 額から赤い糸を引き、苦鳴を漏らす青年は眉根を寄せた。
「さぁ、巽殿。チェックメイトだよ」
 対抗する術を失った青年は、目前に迫る私から逃れようと必死だった。
 床に爪を立て、なんとか身体をおこそうとするが足腰が立たないのであれば致し方ない。だが、脳震盪が治れば再び攻撃を仕掛けてくるのも間違いない。そうならないためにも、こちらは先手を打つことで勝利を確たるものにする。
「少し痛いが我慢してくれ」
 焦点の定まらない瞳は、こちらを見ながら顔に恐怖を刻んだ。
「……やめてください!」
「その願いは聞けないよ」
 戦う者、特に剣客にとって致命傷なのは腕とともに足の怪我である。武器のない今の状態で第一に考えるのは、まず逃げて形勢を立て直す――これであろう。ともなれば、足を使えなくしてしまえばどうすることもできない。
「君は本当に私をヒヤッとさせてくれるからね。しっかり両足の骨、折らせてもらうよ」
 往生際も悪く、まだ逃げようとする彼の足首を取って捻り上げると、私は膝を狙って踵を落とした。


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あきゅろす。
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