PSYCHO KILLER ]Z

 暑いのか寒いのかわからない顔に華奢な手が触れる。温度のない冷たさがとても心地よい。いや、これは生気ごと熱を奪われているのかもしれない。今の彼ならやりうる技だ。
「ねぇ?」
 魅惑的な唇が持ち上がり、深海色の髪を耳にかけると彼は背伸びして顔を近づけてきた。
「や、め……」
 何をされるかすぐに悟って抵抗したつもりだが、溢れ出る血に言葉は濁る。
 柔らかい唇が触れ、顎や唇を伝い落ちる血を舐められた。抵抗できないのをいいことに、さらに舌を差し出して口腔内へ侵入し、中すら舐め尽くしていく。
 血がなければさぞ素敵な官能シーンだったろう。ざらりとした舌の感触は、本来なら好みのタイプだ。もしかしたら燃えたかもしれない。
 だが、急に込み上げてくる嘔吐感は容赦なく彼の顔に血を吐きつける。これで気も冷めただろうに、唇はまだ離れない。
 隅々まで丹念に舐め尽くし、音をたてて喉を鳴らす。吸血鬼さながら血を飲み干す口は、そこでやっと離れていった。
 赤く濡れた自分の唇を舐め、他は袖で拭い去ると琥珀色の瞳が笑う。
「吸血鬼が血を奪われるなんて面白いですね。さぁ、貴方も限界みたいですし、そろそろ助けを請えば良いと思いませんか? 助けを請えば、今以上に気持ち良くなれますよ。絶対の安息も得られます」
 その、気持ち良くなれることと絶対の安息が、死ぬことであるのなら却下したい。
「返事は?……返事がないということは、死ぬつもりだと解釈しますよ」
 彼の呆れたような声が響いた。
「では、死を認めた貴方に一つ質問を。俺の最初の目的は何でしたっけ?」
「!?」
 この問い掛けを聞いて、頭の中が白くなった。
 なぜ、こんなことを聞いてくる?
「驚きました?」
 何も言い出せず、何から聞けばよいのかわからず唇が震える。
 こんなに驚くとは私自身、彼が刀の意志に呑まれていると思い込んでいたからだろう。
 逆に彼は、当初の目的と残虐な殺人願望をすり替え、自分が自分ではないよう疑いをかけさせる――つまり、刀に意志を呑まれた役を演じていたのだ。
 私が慈悲を請えばそのまま斬ってかかり、頑なに否定し続けるなら、動けない私をいつでも斬れると余裕を踏んで、遊んでいたのだろう。
 ――完全にはめられた。
「貴方、俺のことこう言いましたよね。自分の罠に獲物が引っ掛かると、それだけで唇を持ち上げる。だから役者は不向きなのだと。なぜ見抜けなかったんですか?」


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あきゅろす。
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