PSYCHO KILLER ]

 追い詰められ、確かなる事実を突き付けられ、何と言うべきか迷った。
「だから君主の配下にある俺にも手が出せない……もう、貴方が斬らせてくれないなら俺、凄く酷いことはじめちゃいますよ?」
 三日月のように細く笑んだ青年は、私に合図するようにエントランスの扉に顎をしゃくると、足早に後退して行く。
「何をする気だね?」
 扉が徐々に開かれる様に誰かがこちらに入ってくると思ったが、それが危険なことだと気付いた時にはもう遅かった。
 青年は腕を伸ばし、刀をエントランスの扉に向けている。それだけではない。刀の周りで大気が歪んで脈打っているのだ。
「止めたまえ、巽殿!」
 泥のような瞳に一瞬、狂気の色を写した彼に私の声は届かない。
 究極まで持ち上げた唇で青年は不気味に笑うと、次の瞬間、扉に向けられた刀から勢いよく突風が放たれる。
「馬鹿なことを!」
 食い止めるには遅すぎるかもしれない。それでも私は、それを阻止しようと力の限り床を蹴っていた。

 ――彼の刀から放たれたもの。
 それは、刀周りの大気条件を故意に変えて風を作り出し、破壊力を備わせた魔術だ。
 魔術と呼ばれるそれの威力は絶大。
 見る限り、範囲を狭め凝縮した風は対象を破壊するに止まらず、その周りにも被害をもたらすくらいの威力だろう。自然現象で言えば、ダウンバーストの類いと同じものだ。
 この魔術に対抗できるのは、もはや魔術しか残っていない。

 人間を遥かに超越したスピードでなんとか先回りに成功した私は、自分の魔術を発動させるために意識を集中させる。
 一瞬たりとも気は抜けない。
 食い止めるための魔術のイメージと共に掌をかざすと、同時に青年が放った突風が到達する。
 風を触れたという感触はない。実際、触れてはいないからだ。
 対象にぶつかる前に、私が作り上げた障壁に遮られた風は、そこから四散し爆風となってエントランス全面を駆け巡る。
 殆どの攻撃を遮断する防護壁で、私の前から一面、それからこのエントランス全面を覆い囲ったため被害は全くない。
 難解な文字と、幾重の魔法陣で青白く発光したエントランスは不気味とも言える。
 私は、後ろで身動きすら出来ないでいる人物に静かに声をかけた。
「……驚かせてすまなかったね」
「いえ」


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あきゅろす。
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