私は今、危機的状況に陥っている。
ベッドに寝かしつけられた身体は服を剥がされ、胸元を晒している。
私を跨ぎ、腰を据えるのは青年。
熱にうなされた頬は赤く染まり、目尻の下がった琥珀色の瞳は涙で潤んでいる。
柔らかそうな唇からは、か細い息を漏らして、
「一緒に気持ちよくなりましょう?」
と、小鳥のさえずりで囁く。が、私は彼の誘惑の言葉に負けそうになっているわけではないし、色気すら感じる表情に悶えているわけでもない。
この目が見ているのは、彼の悩ましげな顔の上、頭上から伸びている、今にも振り下ろされそうな銀色の切っ先を捉えていたのだ。
「……流(ながれ)君、貴方も絶対、気持ちよくなれますよ」
こちらの世界じゃない、どこか遠くを見るような目が現実の私を見つめた瞬間、唇は恐ろしいほどに吊り上がり、人を斬る剣士の目付きに変わる。
刹那、心臓を捉えていた刃先は容赦なく私に振り下ろされた。
招かれた部屋で、人には色んな趣味嗜好を持つ者がいると私は実感していた。
「……で、巽(たつみ)殿、私に折り入って相談とは一体、何だね?」
一通り部屋の中を拝見した私は、ここへ招いた張本人を振り返る。
「流君、取り敢えず座りません?」
ある戸棚の前に立っていた私は、友達を招いたように気楽なことをしている相手を眺め、対面するようにソファーへ腰をおろした。
深い海の色を思わせる青緑の髪の持ち主は、テーブルに敷いた紙の上で、乾燥した葉を丁寧に刻んでいる。
「貴方もやります?」
繁々と見つめている私の視線を感じたのか、彼は顔を持ち上げて柔らかく微笑む。
同じ同性で顔も男だと一目瞭然なはずなのに、その微笑は女神のそれに似ている。
「いや、煙草一本を吸うのに、わざわざ葉から刻む気は起きないよ。大儀すぎる」
「……そうですか」
自分の楽しみを理解されず、残念そうに声音を落とした青年は、刻んだ葉をまとめると側身に置いてある小瓶を取り、その中身を振りかけ始める。
「私の目の前で、堂々とそういうことをするのかね?」
それが何なのかは検討がつく。
「貴方も随分、けったいな事を言う」
その白い粉は香料ではない。勿論、麻薬の類いでもない。
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