BRUTALITY MAN T

 彼の眼は獣そのものである。
 冷めたように蒼い瞳は飢えた目付きで獲物を見据えている。あるいはどこを見ているかわからない、しかし、しっかりとその眼の隅で獲物を捉えている蛇とでも言うべきか……
 そんな人間として逸脱している獣性的な彼が、この人生で絶対服従を誓った私のたった一人の主なのである。



「葵(あおい)とは上手くいってるか?」
 煌々と燃える蝋の灯りの中。
 窓の外に視線を走らせると、沈み始めた太陽が空に滲んでいた。
「滞りなく順調にてございます」
「そうか」
 まだ幼さを残す顔に威厳さを湛えた主は、安堵とは遠い息を吐き、何かを黙殺した後にまた口を開いた。
「惚れただろ?」
 毎度姿を見ずとも、自分の放し飼いにしているモノの行動や思惑など全てお見通しなのだろう。
 クツクツと喉を鳴らして私を見る眼は、そう確信して止まないのかとても自信ありげに見えた。
「いえ、それは……」
 ――確かに私は葵に惚れ込んだ。
 あのように傲慢で図々しく、自己中心的な性格の持ち主に、この方の命がなければ見向きもしなかっただろう。
 はっきり言って、同性を愛する気持ちなど欠片ほども持っていなかった私は当初、疑似恋愛を仕掛けるにあたって色々と苦労し、試行錯誤を繰り返した。
 同性を愛するということに、何か特別なものが必要だと、そう思っていたのだ。
「隠すことはない。寝る間も惜しんで会いに行き、あれやこれやと言われたモノを次々に買い与え、会えば必ず肌を重ねているのを見ればそれくらいわかる」
 この方は一体、私の行動をどこまで把握しているのだろう?
 まるで監視カメラで常に覗いていると言わんばかりの詳細は、否定するに苦しすぎた。
「……仰る通りです、遥(はるか)様」
 だから彼の澄んだ蒼色の瞳を見つめ、もはや嘘もつけまい、そう観念して本音を言った。
「良かったな流(ながれ)。また人を愛することが出来て。護ろうと思えるモノが出来て……本当に、良かったな」
 愁いを帯びた表情でそんなことを言われ、胸の中は苦しくなった。
 私の過去を知る数少ない証人がこの話を聞いていたら、もしかして同じことを言ったかもしれない。あるいは同性に色恋するなど、本当に気が触れたかと同情的に肩を叩かれたかもしれない。


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あきゅろす。
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