KILLER INSTINCT ]]U

 彼の辿り着く場所は、墓場しかなかったという話だ。
「すまないね、葵。嘘をついた私が悪かったよ。あの男は最初から死ぬ運命にあった……いや、私が殺したんだよ。生意気な口調で身の程を弁えず、我が物顔で君を凌辱して、殺されそうになったら涙を浮かべて助けてくれだなんて、あの態度には胸くそが悪くて吐きそうだったよ。たかが虫けらの分際で命乞いなど笑わせてくれる。君に寄り付く害虫は全て、私が駆除して歩くよ。何せ君は私だけのものなのだからね。君のためならば、私は何にだってなれる。君が望むなら、この世界を滅ぼすことだって出来る。君は私の神だ。君こそが私の全てなんだよ…………こう言えば、君は満足かね?」
 無表情で、怒涛の如く卑下た言葉を連発した私に絶句した様子の少年は、それでも柔らかな笑みを浮かべている。
 自分のことを称賛され、服従すると言われているのだ。拒むことはあっても、悪い気がする者などいないに決まっている。
 ましてや少年は、この手のタイプにはもっぱら弱い。冗談や嘘で言っても、それを逆手に取るような人間なのだ。
「やっと自分が殺したって言ったね? ずっと君の口からその言葉を聞いてみたかったんだよ。後者については、感情を込めて言ってくれたら信じてあげてもよかったかな。棒読みじゃ嬉しさも半減さ……でも、人を害虫とか、君こそ神にでもなったつもりでいるんじゃないの?」
 悪戯に笑う天使の美貌を見つめ、静かに息をついた私は、さも心外そうな顔をして見せる。
「そんな、神などという大それたものになったつもりはないよ。私はただの熱狂的な、君の大ファンさ」
「……」
 言葉を失い、唖然とする少年に笑って見せて、私は視線を眼下の街へと走らせた。
 泥のような闇で輝くネオンに、異様に映える一角の炎を見つめ瞳を閉じると、その光景は瞼の裏で鮮明に写し出される。
 己に言い聞かせるように、これは君の為にやったんだ。あの男は死んで当然の報いを受けた。無実の罪で人が何人死のうとも、君の替わりは存在しないんだと、そう言い聞かせて瞼を持ち上げる。
 こんな酔狂な夢でも、いつかは目が覚める。
 それは私が死ぬその時なのか、少年が死ぬその時なのか、自分自身にもわからない話なのだが……


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