KILLER INSTINCT ]W

 そう思うと、やはり痛みには痛みを与えるしかないと結論が出る。
 床で無造作に転がった通信機器を見やり、それを拾うと、私は医師の足元に回った。
 膝の関節を足で確認しながら、それをゆっくり踏むと力を入れる。
 人間を遥かに凌ぐ私の力をもってすれば、骨を粉砕するのも容易い。それを証明するように、奇怪な音をたてて砕けた骨に、医師は絶叫をあげ目を覚ましたようだった。
「おはよう、ドクター。夢見心地は良かったかね?」
 今までに経験したことのないような痛みに、人間らしかぬ呻き声をあげて身を捩るも、また襲いかかる痛みにどう対処していいのかわからないのだろう。
 過度に動き回って破壊された臓器を圧迫させるより、大人しくしていたほうが身の為だと言ってやりたいのだが、もう耳を傾けることも出来なさそうだ。
「安心したまえ。この手で君を殺すなどという、大それたことはしないよ。言っただろう? どんな愚者でも更正するチャンスを与えなければいけないと。だから私は、君へ更正するチャンスを与える」
 殺されないとわかり、自分の命の危険が回避されたことで、なぜこうも大人しくなれるのか。
 生きられるという希望だけで痛みを忘れられるのなら、助けを呼んだら、この医師は今すぐにでも傷の修復を始めてしまうのではないだろうか?
 生きる力とは、本当に恐ろしいものだ。散々、痛めつけてやった人物の話すら真に受けてしまうのだから。
「今、レスキューを呼んであげよう。しかしだね、隊員達がこの有り様を見たらどう思うかな? 君は何者かに襲撃された……そう思うだろうね。そうなったら次は、犯人を探さなくてはいけない。この院内にある全てを調べあげ、犯人を特定したら私を指名手配するだろう。でもドクター、ここからが重要だ。通信機器の中には、君と私の会話が残されている。その会話を聞けば、これは襲撃ではなく報復だということくらい誰でもわかる。私の罪だけではなく、君の罪まで問われるんだよ。医師としての生命線は途絶えたと同じことだ。あんな猥褻行為を働いたんだからね」
 罪の重さを考えたら、私のほうが圧倒的に不利なのはよくわかっている。
 今回に限らず、これまでの過去のことを洗いざらい調べられたら、死刑は免れないだろう。
 それだけ私は、社会に反することをし、尚かつ平然とこれまでを生きてきたのだ。


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