KILLER INSTINCT ]

 まったく機械というものも不便な物だ。状況は把握出来ているのに、主の命令がないと動くことが出来ないのだから。
 何があっても逃げはしない、意見もしない、絶対服従の良さが、こういった時に仇となるのだ。
「やれやれ……人の話は最後まで聞くものだよ」
 ひしゃげたサングラスを投げ捨てた私に、動体認知を処理した人形二体が、命令通り襲いかかってくる。
 それなりの戦闘プログラムは組み込まれているのだろうが、その動きはまるでなっていない。
 私の目の見方を変えれば、それはスローモーションのコマ送り程度にしか見えないのだ。
「遅いよ」
 左右から迫る華奢な腕を二つ掴むと、それを勢いよく自分の正面に持ってくる。鉄のように重い胴体は、勢いの軽減も容赦もなく、お互いにぶつかりあう。
 鈍い音をたてクラッシュした機械は、それだけで故障したようだ。
 糸を切られたようにガックリと膝をつき、床に伏して機能の停止をした脆さに、やはりこんなものかと手応えのなさを感じる。
「もっと高性能なものを用意すべきだったと後悔したかね?」
 クスリと笑って、医師に一歩一歩近づくと、恐怖に歪んだ顔は視線を私から反らすことなく後退していく。
 トン、と壁に背中が当たった感触に、左右どちらに逃れようか一瞬視線が揺らぐ。
 見逃しはしない。
 逃げ道はこの診察室を抜けるドアしかないのだ。
 瞬時に歩先を変えた医師に、隙を与えず掴みかかると壁へ叩きつける。身動ぐ身体を押さえつけ抵抗出来ないようにすると、ワイシャツから伸びる首筋に顔を埋める。
 それだけで何をされるのか、勘の鈍い人間でもわかるだろう。
 熱い息を吹き掛け、厭らしくその首筋に舌を這わせると、それだけで医師の唇からは息という息が荒く吐き出される。
 今、この医師は恐怖の真っ只中にいるのだ。
 抗うことの出来ない力の差に、迫る死へのカウントダウン秒読みに、気が狂ってしまいそうな程の恐怖を感じているのだ。
 嫌々をし、首を振る子供のような仕草に、私は再度、宥めるように首筋を舐める。
「……はっ、た、たすけてくれ!」
 命乞いの言葉も貸す耳を持たないように無視し、押さえつけた身体に更なる負荷を加え、微動たり出来ないようにすると牙を剥き、その皮膚に触れる。
「たす――!」


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あきゅろす。
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