KILLER INSTINCT T

 今夜はやけに冷える。また、雪が降るのだろう。
 白い息を吐きながら、私は仕事を終えて居住の城へ戻ってきた。
 ぼんやりと、薄明かりのライトが城を映し出す世界は幻想的とも言えよう。そんな中、雪を踏みしめ重い扉を開け放つと、続くエントランスに一人の少年の姿があった。
「こんな所でどうした、葵(あおい)?」
 輝く金色の髪に澄み通った蒼眼の持ち主は、虚ろに視線をさ迷わせ、こちらを見た後バッタリ床に倒れこんだ。
「葵!」
 慌てて少年に駆け寄り抱き寄せると、その頬は赤く染まり、吐く息は荒々しく、力の抜けた身体がやけに重たく感じた。
「しっかりするんだ、葵!」
 頬を軽く叩き、何度となく名前を呼び掛けると、長い睫毛が揺れて薄い唇だけが開かれる。何か言いたげな口に耳を近づけると、力なく私の名を呼び、こう言うのだ。
「ながれ……凄く、寒いんだ」
 ハッと思い少年の額に手を乗せると、やはり熱がある。あり得ないほど熱くなっている体温に、私はそのまま身体を抱き抱えると城の外へ出た。
 車を止めてある場所までそう時間はかからない。この時ばかりは、さすがの私も都合良く出来た城の敷地内の構図に感謝した。
「葵、冷たいが少しここに座っていてくれ」
 抱き抱えた葵を地面に座らせ、車庫のシャッターを手動で押し上げる。中にある数十台という車を確認すると、手前のものを選別して壁にかかったキーを取り、急いでエンジンを回す。
 何をこんなに焦っているのか、自分でもよくわからなかった。私は産まれてからこのかた二十二年、病気などしたことはない。もちろん風邪だってひいたことはない。それでも明らかに高熱で倒れた少年には、一刻も早く医師の適切な処置をしてもらわなければ最悪、脳に障害が残るかもしれないということはわかっていた。たかが風邪だが、病を侮ってはいけないというのが私の考えである。
 車に乗り込み車内の暖房を最高まであげると、外にいる少年を再び抱き抱えて助手席に乗せる。
 今から病院に行けばギリギリで診察に間に合うだろう。そう考えて、ネオンに輝く眩しい街中に車を走らせた。



 車を走らせて数十分、病院に着いた私は、意識の朦朧としている少年を車から降ろす為、助手席に回る。


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