RADICAL MAIN 序章 W

「本当は嫌なんだろ、凛々?」
「……え?」
 行為に拍車がかかり、もう少しでその気になれたかもしれないのに、突然の言葉に我に返った。
「お前は嘘がつけないタイプだ。顔に嫌だと書いてある」
 苦笑を浮かべる七海さんは触れた手を離すと僕に服を着せる。
 呆気に取られてなんと返事をしていいのか――でも内心、安堵したのも確かだった。
「七海さん、いいの……?」
「俺だって無理矢理っていうのは趣味じゃない。そもそも過去を思い出させる療法でこんなのは有り得ないだろ? 俺がどうかしてた」
 離れていく彼の姿に身体中の力が抜けていく。深い安堵を覚えるのと同時に、僕は泣きそうになる。
 嫌じゃないと言ったら嘘になるけど、表情に出るほど嫌な顔をしていたんだなって思うと悔しくて、自分の演技力のなさに泣けてきた。
「お前は優しいからな。こんなことまで無理しなくても、書類は適当に書いて提出する。気にするな」
「……うん」
 再び眼鏡をかけた七海さんが戻ってくる。困ったように苦笑した顔で、僕の頭を撫でると強く抱きしめてくれた。
「男なら泣くな」
「うん。でも」
 本当は泣きたくないのに、じんわり目頭が熱くなって涙が零れてくる。こんな泣き顔なんか見せたくなくて、つい七海さんの胸の中で泣いてしまう。
「七海さん、ごめんなさい」
「……気にするな」
 彼の腕の中、気が晴れるまで泣きじゃくった。不安や安堵が一斉に押し寄せて涙が止まらない。僕は本当に弱い人間だ。
「もう少し、このままでいて……」
「ああ」
 こうやって僕と七海さんとの生活は幕を開け、新しい日々の始まりを告げた。
 忘れた過去は思い出せないままだったけど、誰かが側にいてくれることが何よりも幸せで温かく感じた日だった。


[*←||→#]

4/5ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!