七海さんは仕事には凄く真面目な人で、でも性格も誠実な人だから、このことに罪悪感を抱いているに違いない。けれど仕事は忠実にこなす堅実家だ。彼が彼自身を責めないように僕が誘えばそれで事は済む。
「七海さん、いいよ。抱いて」
「凛々……」
予想だにしなかった言葉に、七海さんは驚きながらも嬉しそうな表情を浮かべた。内心、僕は安心したけれど、愛してもいない人とこんなことをしちゃうのはやっぱり気が引ける。
「本当にいいんだな?」
言うより早く暖かい手は顎を引き寄せる。
「……はい」
僕は嘘をつく。
自分自身にも、七海さんにも。
こうすることでしか七海さんに仕事をしてもらう方法がないからと言い聞かせて。
「僕は構いません」
「そうか」
暖かい唇は首筋に触れ、大きな手は僕の中途半端な衣服を乱雑に引きずりおろし、素肌を這った。
海が一面見渡せる窓際で、僕は全てを受け入れた。
「――っ、あっ!」
身体をなぞる指は、僕の胸元を苛みながら静かに激しくなった。
泣かないように、泣かないように、自分にそう言い聞かせて歯を食いしばり、事が早く済むように心の中で願って目を閉じる。
「怖いか?」
ふと、七海さんがそんなことを囁く。
「大、丈夫です」
自分に言い聞かせるように答え、聞き分けの良い子を演じるように嘘をつき続けて、そして願う。
――早く終わって、と。
「凛々、俺は男だぞ?」
そんなことわかっている。勿論、男同士でこんなことをする自体、変なのもわかっている。
ただ……
何もない僕は七海さんに嫌われたら、1人ぼっちになってしまう。
また狂いそうな白い静寂の中に閉じこめられて、今度こそ気が狂ってしまう。
唯一、僕を狂いそうな静寂から救ってくれた人だから、嫌われたくなくて、気にかけてもらいたくて、下手な芝居を演じる。
「……大丈夫。だから、早くして」
鼻で笑い飛ばし、休ませた手と唇を再び動かし始めた七海さんは、腰で止まっていた僕のジャンプスーツを一気に引きずりおろし、激しい愛撫と口づけを繰り返した。
もう、後戻りはできない。でも、この選択に間違いはなかったと言いきれる。二人にとって最善を尽くしたと胸を張れる。
そのつもりだったのに……
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