――ガーランド。
僕は今、そこに住んでいる。海が見渡せる家は街からかけ離れていたけれど、白い壁と螺旋階段で繋がれた二階からの玄関がお気に入りだった。
「気に入ったか?」
窓を開ければ潮風が頬を掠める。新鮮な磯の香りと空気を肌に感じ、部屋の中を見渡す。
「うん」
僕をこの家に案内した七海(ななみ)さんは、何度もここへ下見に来ていたみたいで既に家の住人のように馴染んでいた。
そして彼は、僕の新しいガーディアン(護衛者)と言いたいところだけど、実際は人手不足で配属出来ないから、元ガーディアンの七海さんが僕の観察記録と共にその仕事も買って出たんだって。
「七海さん、ありがとうございます」
「そうか。じゃあ早速だが、俺の質問に答えてくれないか?」
おそらく食卓用のテーブルだと思う備えつけの椅子に腰をかけると、手持ちのアタッシュケースから色々な書類と拳銃を取り出した。
「この銃は七海さんの?」
「いいや。これは凛々(りり)、お前のだ」
真面目に返ってきた答えを聞いて、背筋に悪寒が走るのがわかった。
剣や銃、街の人を見ていても誰もが当たり前に所持してる武器。だけど露骨に見せられると心が苦しくなる。
「なんだ、剣がよかったか?」
僕の顔色が変わったのに気付いて、七海さんは不思議そうな顔をする。
そういう問題じゃないんだけどな。
「いえ、銃で構わないです」
そんなことを言ってはみるものの、実際に使ったことはないし、とにかく怖かった。自分の身は自分で守れと言われているようで、怖かった。でも七海さんはこの気持ちをわかるはずがない。
「凛々、簡単な質問だ。病院で目が覚める前のことは本当に覚えていないのか?」
――そう。
僕は記憶喪失になった。どうして入院したのかも、どうやって病院に行ったのかも、それ以前に僕はどこで誰と何をしていたのか、病院で目が覚めた日より以前のことは何一つ思い出せない。
言葉は話せるのに。
日常生活の営みもわかるのに。
「何もわかりません。思い出したくても、思い出せるものがありません」
けれど僕は、記憶喪失に不思議と不安を抱かなかった。別に思い出せないままでもいいかな? とも思ってる。
「……そうか」
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