ONE CRYSTAL X

 まるで掴み所のないまま美麗な少年が部屋を出ると、流に言われた三人と我等が君主、遥がリラクゼーションルームに残された。もちろんこれから徹夜の作戦会議が始まるのだ。
 しかし誰が好き好んで徹夜なんてするものかと、不機嫌さを強調したDが突然声を張り上げる。
「あのさぁ、グレードキャニオン要塞、見取り図あるの? あんな馬鹿みたいに広い要塞、地図なしじゃ迷子になって返り討ちになるのがおちだよ?」
 黒縁の眼鏡を押し上げながら、Dは金色の瞳をめい一杯見開く。
「見取り図なら確か書庫室にあるはずだ。俺が取ってきてやろう」
 煙草の火を消し、ソファーから立ち上がった遥は部屋を出る。やけに協力的な姿勢に、四人は唖然としていた。
「どういう風のふきまわしだろうね……」
 Dの言うことはもっともだろう。普段、自室にこもり聖帝騎士団にオーダーを出すも全て麗伝え。自分は全く動かないのだ。たまに動いたとしても、城の庭にあるテラスで本を読むか、拷問部屋で誰かを拷問している。そんなくらいのものだ。
「まぁ良いではないか。遥様も元々はクリスタルのコレクター集団、D/Wに所属していたのだ。血が騒ぐというものではないのかね。さて、余談はこれまでとしよう。巽殿、D殿、席を詰めてくれ」
 端と端に座っていてはまるで話にならない。流は自分の側に二人を近づけ作戦会議を開始する。
「まず、活動開始時間だが、明日のニ十一時を予定している。完遂時刻はニ十五日の十八時。時間にして四十五時間になる。これ以上長引かせるとこちらの集中力がもたなくなる。いいかな、今回のキーはいかにして短時間で五万の兵を全滅させるかだ」
 策士、流の頭の中では既に作戦が練られているようだ。
「ちょっと待って下さい流君。俺、グレードキャニオンに三年位いたのである程度の内部事情は知ってるつもりです。まずクレイモア将軍ですが、彼は悪魔系四大貴族のラファエル家の末裔です。ラファエル家といえばご存知の通り、純血種の吸血鬼の家系。それからアステル将軍、彼の素性は生粋の悪魔。悪魔系第ニ階位のヴァレンタイン家の末裔です。二人とも実力に大差はありません。それと空中回廊は全部で三層になっていて、三階に将軍、二階にはロックシステムの下、悪魔の四天王と呼ばれる四人がいます。この四人の部屋にロック解除のコンソールが設置されていて、彼等からロックキーカードを奪って四つのロックを解除しなければ三階へは進めません。更に一階ではアンダーシックスと呼ばれる悪魔騎士六人が二階へ通じるロックキーカードを持っています。ここでもこの六人を倒さなければいけないことになります。重要な人物はこの十ニ名。全て悪魔、吸血鬼揃いです」
 怒濤の嵐のように一気に喋りまくった巽はここで深い息を吐く。普段あまり物事を喋らない彼にとって今の長い言葉はどれだけ苦痛だったか。そんなのは誰も知る由はない。
「巽さん、グレードキャニオン要塞に勤めてたんですか? 初耳です。どうして言ってくれなかったんですか?」
 感心と驚きを混ぜたような表情で、翠色の髪の主は言葉を発した。
 巽の最終履歴はガーディアン。この世に一つしか存在しないクリスタルを持つ者や貴重なクリスタルを持つ者をクリスタルのコレクターから護るための護衛である。
 そんな彼がどうやったらクリスタルのコレクターである遥に加担し、その身を転落させたのか疑問であるが、今はそれを突っ込む余裕もない。
「俺がグレードキャニオンにいたことを話す機会がなかっただけです」
 目尻の下がった琥珀色の瞳を細めて巽は言う。この人物の歴史など、一年近くも一緒に過ごしている聖帝騎士団のメンバーですらわからない。全く不思議な男なのである。
「いい情報、手に入ったんじゃない? というかさ流君、君さ、策士として悪魔の武将達にどう挑むわけ? ここにいる四人ならまだ互角な戦いできるけど、他の四人には少し厳しいよね」
 Dの言うことは確かだった。
 流と麗の二人は過去ガーランドのアイアンメイデンに所属し、悪魔を相手に戦ってきた腕利き。ましてや流は現在、血色の瞳を持つ吸血鬼、悪魔種族に転じた一人なのだ。その力は人間のそれを越えている。
 巽にしてもアイアンメイデンの討伐隊で戦った経験がある。流、麗とはその時から面識があり、互いに実力を認め合うくらいだ。
 そしてDr.Dは紛れもなく生粋の悪魔で、その力はずば抜けて高い。悪魔相手にも十分対抗できるだろう。
 しかしこの最強にも近い四人がいながらも、グレードキャニオン要塞を落とすとなれば話は別である。
「D殿が言う四人についてなんだがね、ただの一般兵に使うことはないが、対悪魔となった時はトランスモードオメガを発動させるよう指示するつもりだ。これで幾分かは有利になるはずだがどうかな?」
 流の言うトランスモードオメガとは、己の持つクリスタルの力を解放、発揮する状態を言う。クリスタルの種類も力も人によりそれぞれ異なるが、この聖帝騎士団の八人のクリスタルは戦いに適したもの。


[*←||→#]

5/6ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!