ONE CRYSTAL U

「それはすまなかった。いかんせん、全員のスケジュールを合わせて空いた時間に集めるのは、今日この時間だけしかなかったのだよ」
 天井に昇る紫煙を見つめ、流は言う。日々、遥のオーダーを遂行する八人にとって仕事と仕事の間の休息は貴重なものだ。その貴重な時間を割いてここに集まったのだから、なんとしてでも話に決着をつけたい。皆が皆、そう思っているはずだ。
「流、君もとんだ厄介話を提案するよね。どこまでお人好しと言うか、どこまで主に忠実って言うのか……本当、尊敬するけど呆れるよね」
 組んだ足を逆に組み換え、美麗な少年は向かえの男を盗み見る。その表情はもちろん呆れ顔で構成されている。しかしそれを見て見ぬふりをし、企画者は話を進める。
「葵、これは言葉にできるほど簡単な忠義心証明ではないのだよ。さて話を戻すが、我等が君主はなにをご所望か……皆で考えてくれたまえ」
 煙草を口元に運び、皆の顔を見るがなぜか全員が押し黙る。やはり、遥の欲しい物などこの世に存在しないのか――そう流が思った時だった。
「拷問器具一斉入れ替えなんてどうかしら?」
 錆の発言に誰もが口をあんぐりさせた。こんな時に誰が拷問器具を交換して喜ぶのか。しかし無類の拷問好きな遥なら、新調した品々に喜ぶのかもしれない。
「何も言わねーから錆、黙っとけ。男は剣か刀って相場が決まってるだろ、あぁ?」
 腰を浮かせ、足をテーブルに乗っけた薫は腕組みをしたまま喋る。この図々しい格好も既に皆、慣れたものだ。
「どうせなら、拷問用の人材を大量に用意する。それも人間から悪魔まで選り取り見取。俺が用意しても構いませんよ」
 そしてまた話が拷問に逆戻りする。巽の言葉に流は渋そうに煙を吐き出した。
「……ケーキ、お菓子。クリスマスはなに食べるの、麗ちゃん?」
 まるでこの場に合わない、ちんぷんかんぷんなことを話すのは雅。精神年齢が精神年齢なだけに致し方ないと言うべきか。流は頭を抱えた。
「そうですね雅君、クリスマスは食べれませんが、お菓子やケーキは食べれますよ。流様、もちろんご用意致しますよね?」
「あ、あぁ」
 麗までおかしなことを言い出し、とうとう話が脱線した。皆を集めて話をするのが間違っていたのか、もう今となってはそれすらわからない。
「あのさぁ、皆よく考えなよ。あの遥がこんないつでも出来ることして喜ぶと思ってるの?」
「そうだね。皆もっとまともに考えたほうがいいと僕は思うよ」
 葵とDの発言はもっともだろう。普段、自分のことしか考えていないこの二人が真面目に意見するなど珍しいばかりである。
「だから俺は考えるの面倒くせーつってるんだろうが!」
 それに比べ怒声をあげる薫は短気な性格でも有名。こうも早く頭に血が登るとは想像もつかなかっただろう。流は吸いかけの煙草を灰皿に突きつけると、切れた相手を宥めようと口を開く。
「まぁまぁ、落ち着きたまえ薫殿。君にとってはくだらない議題なのかもしれないが、ここは一つ、聖帝騎士団の一人として最後まで付き合ってくれ」
「……しゃーねぇな。わーたよ、付き合えばいいんだろ付き合えば?」
 ――はぁ。
 わざとらしく大袈裟な溜め息をついて見せた薫は、テーブルに乗せた足の横にあるソーサーカップに手を伸ばす。ほどよく冷めたコーヒーを一気に飲み干しテーブルに戻すと、視線は遠くに座る流へと向けられる。
「このままでは埒があきませんね流君。もっと効率の良いことを考えなければ時間ばかりが過ぎてしまう」
 確かに巽の言う通りだ。このまま八人中八人の意見を聞いていたら、永遠会議中となりかねない。
「あのさぁ皆、別にプレゼントって内緒にすることないんじゃない? 内緒にして考えたプレゼントを渡して遥の気に入らないものだったら、そのとばっちりを受けるのは紛れもない、この僕達なんだよ? 僕は絶対嫌だからね、拷問受けたりするの」
 身振り手振りの大袈裟な仕草で、葵は悲痛な胸の内を暴露した。確かに良かれと思ってしたことなのに、相手に気に入ってもらえずとんだ仕打ちを受ける――そのことのどれだけ恐ろしいことか。
「じゃあ何かしら……あたし達が直接、遥様に欲しい物を聞くのかしら?」
「うーん。それしかないと僕は思うけどね。けどあの遥君に限り、よほど欲しい物だなんてそうそうないと思うね」
 錆の発言が妥当だろう。しかしDの言う通り、日々欲しい物を手に入れているあの遥にまだ欲しい物があるのかと、そこだけが疑問として残る。
「……クリスタル。遥ちゃんはクリスタルが欲しいの」
「そうですね、雅君。確かに遥様はクリスタルのコレクター。どうでしょう、僕達八人で何かこの世に一つしかないクリスタルを取ってくるとは? あと四日。八人なら四日あればなんとかなるでしょう」


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