ONE CRYSTAL T

 例年に比べ、今年の冬はやけに冷える。
 城主の遥(はるか)は自室に入るなり暖炉に火を灯し、吐く息で両手を擦り合わせたが、その行為の無意味さといったらない。
「やけに寒いな」
 そう呟く言葉もまた白い息に飲まれる。
 城の全室に暖房器具を搭載するか頭を悩ませたが、工事を任せている間の寒さのほうが凌ぎ難い。
 そんなことを考えながら時間を潰すが、一向に部屋が暖まる気配がなく、仕方がないので常時暖炉がついている聖帝騎士団専用のリラクゼーションルームに行くことにしたが、些か気分が向かない。それでもここで凍えているよりはましだろう。
 遥は小さな溜め息を吐き、自室を後にした。



 一方リラクゼーションルームでは、聖帝騎士団のメンバーが珍しくも全員集結していた。
「今日、皆に集まってもらったのは他でもない。四日後のクリスマスについてだが……」
 部屋に集まった八人のうち一人、腰まで伸ばした黒髪と血色の瞳を持った主が話を切り出す。
 全員革張りの赤いソファーに座り、声の主に注目するが一人だけ不服そうな声をあげる者がいた。
「あのさぁ、流(ながれ)。僕達いつからイベント行事やるほど庶民的になったわけ?」
 金髪に蒼瞳を持つ、この騎士団の中で最も麗しい少年は、発言をするとテーブルに置いてある紅茶を一口啜る。
「葵(あおい)、これは我々のためのクリスマスではないのだよ。我等が君主、遥様のためのクリスマスであるのだ。話を聞けば遥様はこのかた17年、クリスマスをやった記憶がないと言うではないか」
「へぇ。てことは、我等が君主様のために僕達が各々クリスマスプレゼントを用意するってこと?」
「それなんだが……私も色々考えたが一人では拉致があかなくてね。皆の意見を聞きたいと思い、今日この場に集まってもらったのだよ」
 向かえに座る葵を見つめ、煙草に火をつけた流は煙を吐き出すと再度口を開く。
「各々にプレゼントを用意するのは骨が折れる。そこで私は考えた。皆で決めた金額を出し合いプレゼントを決め、それを買う。買いに行くだけなら、我々がオーダーを遂行中でも秘書を務めている麗(れい)ならいつでも買いに行ける。どうかね?」
 灰を灰皿に落としながら、皆の意見を聞くように全員の顔を見つめる。明らかに不服そうだった葵も流の意見に納得したようだ。
「さすが流様、いい考案ですね。僕はいつでも街に降りれるので構いませんよ」
 淡い翠色の髪に深い翠色の瞳。遥の秘書を務めている麗は、能面を貼りつけたような微笑を浮かべながら賛成の意を唱える。
「ちょっと待って……俺、お金持ってない、よ?」
 麗の隣に座る、まだ年端もいかない少年は、蒼髪の頭をかきむしりながら金色の瞳を細める。聖帝騎士団のメンバーであり、高待遇な給料を貰っているはずだというのに、お金がないとは一体どういうことか。
「雅(みやび)君、それなら心配いりませんよ。貴方の給料は全て僕が管理していますからね。必要ならばその分、口座から引き出してくればいい話です」
 麗は雅の頭を撫でながら、先程とうって変わらない笑みを見せる。この人物は笑うという表現力が非常に欠けているようだ。
「んでよぉ、あのヤローに一体何をやるっつーんだよ? 俺は考えるだなんてまっぴらご免だぜ」
「……薫(かおる)君、あのヤローとは失礼ですよ。口を慎みなさい」
「あんだよコラァ! 殺るのか巽(たつみ)?」
 短い金髪を逆立て、フレームアウトしそうなサングラスをかけた薫は、口調も悪く乱雑な性格で有名だった。その薫が血気盛んに自分の横に立て掛けた刀に手を伸ばす。
「殺りますか、薫君?」
 眉間にしわを寄せ、海よりも深い色合いの髪をかきあげた巽は、この騎士団の中で一番年輩である。琥珀色の瞳を細め、薫を睨みつけると自分も腰にある銃へ静かに手を伸ばす。
「待ちなさいよ、あんた達。そのやる気、もっと仕事で生かしなさいな」
 乱闘まがいになりそうな雰囲気を制したのは、ロイヤルミルクティーのように甘ったるく染めた髪にウェーブを施した、見た目は女の人物、錆(せい)。灰色の瞳を思いっきり見開いて二人を交互に見渡すと、その隣から大袈裟とも捉えられる溜め息がこぼれる。
「はぁ……ここで乱闘騒ぎ起こすなら他でやってよね。ただでさえ忙しいっていうのに、こんな所で殺しなんか見たくないよ。でさ、話戻すけどプレゼントて何あげるわけ? あの遥君のことだから一筋縄じゃいかないよ?」
 最後に騎士団の研究者Dr.D(でぃー)が口を挟むが、その内容は深刻そのものだった。遥が望む欲しい物など、一体この世のどこにあるのだろう。まるで検討もつかない。
「流君もさ、もっと早くに企画立ててくれないと困るんだよね。このままじゃ企画倒れもいいところじゃない?」
 Dはソーサーカップを手に取ると、白衣を汚さないよう慎重に口元に運ぶ。


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あきゅろす。
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