THE MASTERMIND X

「コレクターか。厄介なことになりそうだな」
「えぇ。私への差し金はドールでしたが……庚、これからは気を付けたほうがいいですよ。どんな刺客が送られてくるかわかりませんし、遥の狙いは最終的に凛々なんだと思います。くれぐれも凛々を一人にしないように」
「あぁ、わかってる」
「ところで……」
 会話の主役的な青年、桜色の髪を携えた凛々が室内にいないことに悠はやっと気付いたらしい。辺りを見渡す蒼い瞳に庚はゆっくり話を続ける。
「凛々か? 凛々なら黒龍と一緒に外だ。心配いらない」
 悠の不安は一瞬にして吹き飛んだ。黒龍が一緒なら多少何かあったとしとも凌げるだろう。彼には庚も悠も一目おいていたのだ。
「そうですか」
 悠は安堵したかのように微笑みを浮かべた。だが、それも一瞬だった。
「そういえば庚。さっき貴方がシャワーに入っていた時、一つの式神がここに送られてきたんですよ」
「……なんだと? 式神が送られてきた理由は何だ?」
 庚は神妙な面持ちの話し相手を見ると眉をしかめた。
「明らかにあれは偵察でしたね。私達の居場所を探るためでしょう」
 日中の敵に続いて次は式神などとは、気を抜ける状態ではない。全く家を出て一日も経っていないというのに、この騒々しさは一体何なのか。
「これじゃおちおち寝てもられないな。どうする悠、交代で見張りを立てるか?」
 長い金髪を掻き上げ深い溜め息を吐いた庚は、外を見やるとおもむろに窓を開ける。
「そうですね。いつ誰がやってくるかわかりませんし、そのほうがいいかもしれません」
 部屋の中に入ってくる風に髪をなびかせながら金髪の青年を見やると、悠はふとドアのほうに視線を投じる。先ほどから何やら廊下で足早な靴音が響いているのだ。
「――庚、来ましたよ!」
 早口にそう言うとベッドから腰を持ち上げる。するとタイミングを見計らったかのように足音はこの部屋のドアの前で止まった。
「足音からして一人じゃないな」
「えぇ、そうですね」
 二人が一心にドアに注目し、誰が来るのかと思考を巡らしていると、ノブは静かに回され徐々に扉は開かれた。
「夜分遅くに失礼。訳あって話があるのだが少々お邪魔するよ」
 カツンとピンヒールの音を響かせて部屋に入って来たのは、長身で長い黒髪を携えた男だった。続いて後ろから、やや背の低めな見目麗しい金髪の青年が入ってくる。
「……お前達が何者かは知らないが、部屋に勝手に入ってくる非常識人だってことはわかった。で、名前くらい名乗ったらどうだ?」
 二人の侵入者を見比べ、庚は静かに腰の銃へ手を伸ばしてベッドを立ち上がる。妙な出で立ちの黒ずくめな二人の行動に、どうやら普通ではないことは察知したようだった。
「これは失礼したね、庚殿。では改め自己紹介を」
 部屋の奥に一歩踏み入った男は、もう一人の青年も室内に入ったことを確認すると、ドアの錠を施し口端を持ち上げて不気味に笑った。
「なんで俺の名前を知ってる?」
「……なんで? それは簡単に想定できるのではないのかね。我々が君達について十分に下調べをしていた――と言えば納得するだろう?」
 男は更に一歩詰め寄り、狭い部屋の中で一言も言葉を発しない悠を見ると歩みを進めた。
「――!」
 明らかに普段の表情とは違う悠に、庚はとっさで庇おうとした。後方にいる金髪の青年はとにかく、この黒髪の男は明らかにやばい。血に染まったような赤い瞳――それが人間ではないことを肯定しているのだ。
「……庚殿、そんな物騒なものはしまいたまえ。別に私達は殺生をしに来たわけではないのだよ」


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