METAMORPHOSE X

 指を動かすと、それだけで卑猥な音が聞こえてきそうだ。その感覚に反応した美咲は、噛み締めていた声を漏らして続きをねだる。
「はやく、して」
 背後にある手に自分の手を添えると、濡れた瞳で相手を見つめる。これはもう、誘っているとしか見えないだろう。
 手を出したのは確かに灰二のほうだったが、まさかこんな展開になるとは思ってもいなかったため、意外なほどに驚いた。
 力の抜けてしまった手が勝手に動き出す。美咲が率先して、中に入った灰二の指で出し入れを繰り返しているのだ。
「気持ちいいんだ?」
 快楽に身を沈める表情を見て、力の抜けた指先に元気を取り戻す。穴の中を埋める細い指が、急に筋の通った硬さになったことで、それは奥の奥までを突いた。
「ああ……灰二、挿れて……っ」
 指だけでは物足りない――質量のあるもので突かれる快感を一度覚えてしまえば、それを忘れられず、また求めてしまう。
 渦巻くような欲望に、美咲は羞恥もなく懇願をした。
「いいよ」
 紫色の瞳が柔らかく頷いた。
 後ろの指を引き抜き、背をこちらに向ける体勢で美咲を壁に押しつけると、そのまま自分の欲望であるペニスをあてがい、挿入する。
「――あああっ!」
 壁についた手に力がこもる。
 隙間なく埋め尽くす灰二のペニスは、間違いなく美咲の身体を喜ばせた。
「すごいな。この中、吸い付いてくる」
 濡れた音を響かせ、緩く出し入れを繰り返して耳元で囁くと、熱い吐息を吐き出す唇を一思いに塞ぐ。
「ん、ふっ……」
 湿った舌は口の中を這い回り、全てを絡め取った。
 序盤に過ぎない律動と愛撫に、美咲の頭の中は早くも白い靄(もや)がかかる。単純に、この行為以外はなにも見えなくなっていたのだ。
 塞がれた口から苦しそうな喘ぎ声を漏らし、唇が離れていくと大きな声で鳴き叫ぶ。
「んん!……はっ、あぁ……」
「そんなにいいか?」
 狂ったように声をあげる美咲の腰を掴み、灰二は激しいピストン運動を繰り返した。
「あああああ! いやっ――!」
 スピードを増し、最も深くを穿たれるアナルは、凄まじい快感に締め付けを強くし、灰二にも吐精を促す。
「……っ!」
 吐息のような声を漏らしたのは灰二。
 締めつけられる快感に眉を寄せ、思いきり腰を振りたくると大きな声で喘ぐ美咲に囁く。
「イきそうだよ、美咲」
「……はっ! いって、あぁっ……俺もイかせて――!」
 断末魔のような叫びがこだまする。
 ペニスが千切れそうになるくらいの締めつけを堪え、最奥まで突き上げると、男とは思えない嬌声が美咲の口から漏れた。
「いやっ、はああっ! イく──!」
 身体の奥まで響く振動に、美咲は二度目の射精を放つ。
「悪い。中に出す」
 続いて灰二自身も絶頂に襲われ、美咲の中に熱いものを吐き出す。
「あ、ああっ!」
 穴の中で脈打つペニスの感覚に、精を放ちながら美咲は身悶えた。
 最後の最後まで気持ちいい――そう思えたのはきっと、相性というものもあったからに違いない。
 互いに全てを出し切り、表情は恍惚そのものだった。役目を終えたペニスを抜き、灰二は美咲の肩に手を置いた。
「……悪かった。もう、二度とこんなことはしない」
 彼が言った言葉に、青年は何を思っただろうか。受け止めきれなかった精液が伝い落ちていく感覚に顔を歪めながらも、美咲は首を振った。
 静寂となった場所で荒い息遣いだけが響く。
 互いに動こうともせず、息を整えながら考えるものは、おそらく同じことだろう。
 ――愛のない感情はただの同情しか誘わない。それでも、今だけは誰かの手に抱きしめられていたい。
 そんなことを頭の中で過ぎらせていたに違いない。


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あきゅろす。
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