DISAPPEAR X

 そして、周囲にあった蝋燭の灯りが風でも吹いているかのようにざわめき、一つ、また一つと明かりを消していく。その暗くなった部屋の中で、遥の手中にあるクリスタルだけが明るい光を放つ。
「これか、美咲のクリスタルは」
 まじまじと、体内から抜き取った刺々しい形の結晶を見ると、幾分楽しそうな面もちになった遥は、合成に使うクリスタルを新たに左手で創り出す。
 簡単に見えてそうでもないクリスタルの合成は、限られた者しか合成の素を精製出来ないうえに、必ずしも作りたいものが出来るとは限らない。
 若くしてこの才能を開花させ、ほぼ作りたいものを作れるようになっていた遥は天才としか言いようがない。
 そんな若き青年はまた、何か怪しいものを作り出そうと不気味な笑みを浮かべていた。
 左手で妖しい光を放つ、形も同じ黒いダミー形のクリスタルを作り出した遥は、隣の手で白く輝く美咲のクリスタルを近づけ、その反応を暫し眺めていた。
 共鳴するかのように輝きだす二つのうちの一つ、遥が作り出した黒い輝きのクリスタルがその光の強度を増し、全てを飲み込もうと隣りに黒き光の放射線を伸ばす。
 徐々に浸食され、白い輝きを放っていたクリスタルが黒い個体へ変わった時、もともと遥に作られたクリスタルはただの光へと変化する。残った光は、誘われるように隣へ光の触手を伸ばし、全体を覆い隠して一つの個体へと落ち着いた。
 月に侵食された太陽のように、僅かの間に作られた新しいクリスタルは、最後の抵抗のように光を走らせ、どす黒い闇の輝きを放ちながら静かに掌へ収まる。
「我ながら上出来だ」
 自分で合成した新たなクリスタルを眺め、芸術家の苦心の品が出来上がったような表情を浮かべた遥は、呼吸が耐え、瞳孔を開いたままの美咲に微笑みかける。
「戻ってこい、美咲」
 合成したてのクリスタルを、もう一度胸へ押し当てて中へ返す作業をする。
 作業自体はとても簡単なもの。しかし、新たな異物を素直に受け入れられない身体は、必ずと言っていいほど拒否反応を起こす。それは目の前の青年も同じ事だ。
 気を取り戻した美咲に待ち受けていたものは、これまで以上に酷く身体を襲う、拷問よりも耐え難い激痛だった。
「――っ! 何だよ、これっ……!?」
 まるで酸素濃度が極度に少ない場所に連れてこられたように、必死に呼吸そのものを繰り返す。
 気がつくと身体からは冷や汗が流れ出し、激しい痛みが止むことなく走り続けている。
「……っく、うああぁっ!」
 痛みに耐えきれず、腕に力を入れた瞬間、手錠で切れた手首から血が流れ落ちる。だが、手首が切れていることもわからないほど、美咲の身体を襲う痛みは酷いものだった。
「……暫くの我慢だ」
 遥の喋る言葉すら聞けない――体の激痛は酷く、情けなく悲鳴をあげて身を捩り、息を荒くする美咲。どんなことをしても、この激痛から逃れる術はなかった。
「くそっ! うああぁっ!」
 最後の悲鳴をあげ、美咲はそのまま気を失う。むしろそのほうが楽だったのかもしれない。
「フッ……気絶したか。でも、次に目覚めたらその手錠を取ってやるよ」
 これまでより最もおぞましい表情で笑う遥は、気を失った美咲の頬を触れ、そっと顎を引き寄せて唇を合わせた。
 意識もなく、力のこもらない口は用意に開き、異物の受け入れを容易くする。
「これでお前も俺の物だ……ふっ、はは、アハハハハッ――」
 灯りのない暗い部屋の中では、遥の笑い声だけが永遠に響き渡っていた。


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