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君と僕と、それと家族と。 蔵不二(+不二家) (ながつき 様)HP





空が紅色に染まりかけた頃、白石と不二は青春台駅のホームに降り立った。
2人きりで誕生日を満喫した後だったが、白石にとってはここからが本番。なんと、不二の家にお呼ばれされたのである。

「いきなりごめんね…」
「ええって!不二クン家でパーティーすんのも楽しいやろし!それに…不二クンとお泊まりなんて夢みたいや!」
「ふふ…ありがとう。うん、僕も楽しみだなぁ。さ、行こうか」

不二の母親と姉は、2人が付き合っていることを知っている。以前、友達と偽って家に遊びに行った時にあっさりとバレてしまった。
2人とも別段嫌がる様子は無い…というより、むしろ歓迎されたことに白石は驚いた。

誰かと恋人同士になったことがないということは本人から聞いていたが、どうやらそれは『本当に好きになれる相手』が現れるまでは付き合わないという本人のポリシーからだったらしい。
不二の母親からそれを聞かされ、『周助は白石君のことが本当に大好きなんだって伝わってくるわ』と言われた白石はとても嬉しそうだったが、不二は顔を真っ赤に染めてそっぽを向いて誤魔化そうとしていたのも、今では良い思い出だ。

そんな思い出に浸りながら空を見上げていたら、先に前を歩き始めていた不二に怪訝そうな表情をされ、歩くように促された。どうやらにやついてしまっていたらしい。
白石は慌てて左右を見回し、不二の背中を追って改札口の方へ走って行った。

住宅街が続く小道を他愛のない会話をしながら歩いていた時、不二がふと思い出したように話題を変えた。
「…あ、そうだ。今日は裕太も来るんだよ」
「ホンマか!?ほな未来の弟クンにもご挨拶出来るんやな!」
「ええ…ちょっと…!」
「冗談やて!裕太君にはまだ言うてへんのやろ?」

困ったようにわたわたと手を小刻みに動かした不二に対して、白石がそう投げかけた。
不二が歩みを少し緩めたと思ったら、立ち止まって目を伏せた。そうして、ゆっくりと小さく首を縦に振った。その表情は見えなかったが、白石に申し訳ないという気持ちが溢れ出したのか、拳をぎゅっと握り締めて震えていた。
それに気付いた白石は、穏やかな表情を浮かべて不二の手を取ると、そのまま自分の方へと引き寄せた。そうして、その震えを落ち着けるかのように身体を包み込んで抱き締めた。

「ゆっくりでええよ…。高校の時でも、大学生になってからでも。今はこれだけで十分や…」
「…ありがとう」
不二は目を瞑り、少しの間その温もりに身体を預けた。


*******************

カチリ。
リビングの電気を落とすスイッチ音と共に、周りは一気に闇に染まった。その中で、ぽつり、ぽつりと蝋燭の明かりが順番に灯されていく。
次々に灯されていく焔に照らされて見えるのは、大きくて丸いケーキだ。その焔は、やがてケーキよりも一回り小さい円をぐるりと作る。

そして、その焔は突如として吹いた風によって綺麗に全て掻き消される。
間もなく、部屋の明かりが再びついた時には、満足げに笑っている周助がケーキの正面に立っていて、パチパチと拍手の音が鳴り響いていた。

「周助、お誕生日おめでとう」
「おめでとう!…ふふ、今日のケーキとお料理は由美子と一緒に張り切って作ったのよ」
「兄貴!おめでとう!」
「不二ク…あ、いや、周助クン、おめでとさん!」
「みんな、ありがとう。嬉しいよ」

母、姉、弟…そして白石と、思い思いに祝いの言葉をかけながら周助を祝福した。
お礼を言った不二の表情は喜びで満ちていて、4年に1度の本当の誕生日がやって来た幸せを噛みしめているようだった。
再び席に着き母親と姉が美味しそうな手作りの料理を切り分け始めると、周助と白石も手伝おうと立ち上がった。しかし、『主役とお客様は座ってて』と言われてしまい、強制的に再び席に着かされてしまった。
周助は白石に目配せし、少し困ったように笑って肩をすくめた。


「白石君…普段は不二君って呼んでいるんでしょう?だったらそれで良いんじゃないかしら?」
「不二クンの家族がいらっしゃるのに不二クン言うのはおかしい思いまして…」
「あらあら…気にしなくていいのよ。いつも通りにしなさいな」
不二の母親が作った料理に舌鼓を打ちながらの会話で、食事の時間は楽しく過ぎていく。最初は緊張していた白石も、今はリラックスした様子で穏やかな笑顔を浮かべながら不二の母親に返事を返していた。

「で…毎年家族でしてる誕生日会に何で白石さんが居るんだよ?」
「あー…えっとね…」
会話に割って質問して来たのは、もちろん裕太だった。
当然と云えば当然の疑問をぶつけてきた裕太に対して、周助が答えを数秒言いよどんだ。場の空気に違和感を持たせないように首を傾げた時、代わりに口を開いたのは母親だった。

「ふふ、私が呼んだのよ」
「…お袋が?」
「ええ。誕生日に白石君とデートする約束をしてるって周助が言うから、せっかくなら家に来て夜は泊まっていきなさいって。彼氏君のお話しはいつも周助から聞いていたしね」
「へぇ、そうだったのか…って……!今、何て…!?」

白石との関係をさらりと口に出されて周助は唖然とした。白石も、ばつの悪そうな表情をしている。
母親は、裕太も知っているものだと思っていたのだろう。
当の裕太はカボチャカレーを掬おうとしたスプーンを落下させ、固まってしまった。
気まずい空気が流れ、母親も頬に手を当てて困惑した表情を浮かべている。
驚いて当たり前だよね…黙っていたことを裕太に謝らないと。
そう思った周助は、軽く深呼吸をしてから口を開き沈黙を破った。

「あのね…裕太。僕、白石とお付き合いしているんだ。黙っていてごめんね…」

周助は、静かな声で裕太に話しかけたが、俯いたままの裕太は動く気配が無い。
どれだけ想いが強くても、男が男と付き合うということは世間から見るとかなりのイレギュラーだ。
場合によっては裕太に軽蔑されるかもしれない。それが一番怖かった。だから、なかなか言うことが出来なかった。

恐れていた事態が起こってしまったのか…そう思った時、裕太がぱっと顔を上げた。
その瞬間、白石のすぐ横を何かが勢いよく通り過ぎ、髪の毛が風圧で揺れる。その直後、金属が壁にぶつかり床に落ちる音がした。白石が恐る恐る振り返ると、そこには、投げた勢いで曲がったと思われるスプーンが落ちていたのだ。
突然の出来事に、白石はそのまま目を見開て固まってしまった。

「兄貴に何したんだよ…!」
「ゆっ裕太君、落ち着きぃや!」
「落ち着いてられるか!」
裕太は険しい表情で白石を睨み付け、今にも掴みかからんと云うような勢いで激情を露わにしている。
テーブルから背を乗り出し白石に向かって伸ばした手を、周助が両手で包み込むようにして受け止めた。
裕太の視線は白石から周助に移る。切なそうな悲しい表情を浮かべていてた。

「裕太!待って…!」
「兄貴っ!」
「あのね…僕、裕太に嫌われるんじゃないかと思って…怖くて言えなかったんだ。だから、嫌うどころか本当に大切に思ってくれていて凄く嬉しいよ。けど、僕は本気だから…」
諭すような穏やかな声でせう言ったが、裕太はどうも納得出来なかった。先ほどの激情はなりを潜めたものの、未だに厳しい表情を保ったまま周助に言葉を返す。

「だって!あんな変な奴と!しかも男だし!」
「うん、確かに変な奴だよね。お馬鹿だし、何処でも構わずスキンシップするし」
「ふ、不二クーン…」
「でもね、裕太。僕は…そういうところも全て愛しいと思えたんだ。家族以外でこんな気持ちになったのは初めてだったんだよ。だから…ね?」
「……」

そう言ってにこりと笑った周助は、本当に幸せそうで…それを見た裕太は少し困ったように頭を掻いた。
考え込んでいるのだろうか。沈黙が続き、白石はもちろん周助や家族も、裕太を見守るように続く言葉を静かに待った。
暫く経ち、ようやく裕太がぼそりと小さな声で呟く。

「…兄貴が、そこまで言うなら…」
「不二クン、裕太君…!」

その言葉を聞いていち早く表情を明るくした白石は、椅子から立ち上がって2人の側に歩み寄り、裕太の前に立って爽やかな笑顔で片手を差し伸べた。

「じゃあ改めて…。宜しゅうな、裕太クン!」
「ま、まだ認めてないですけどね…!とりあえず、宜しくお願いしまーす…」
白石とは真逆に、俯き加減に目を逸らしながらも手を差し出した裕太と握手を交わす。
その様子をとても嬉しそうに見つめていた周助に気付き、裕太ははっとした表情を浮かべた後に頬を薄赤く染めて握手していた手を途中で引っ込めてしまった。

「おおっ!表情とか不二クンにそっくりやなー!かわええ弟が出来て幸せやで!」
「ちょっ、やめて下さいよ白石さん!」
「やめへーん!」
「兄貴ー!助けてくれー!」
「…ふふっ、ちょっと嫉妬しちゃうなぁ」

白石は、必死に抵抗する裕太の髪の毛をわしゃわしゃと撫で回していた。
互いの表情から緊張が消えていて、その光景はとても微笑ましく見える。先ほどの気まずい空気は何処へやら…。
クスクスと笑いながらそれを眺めていると、姉の由美子が近付いて来て、こそりと耳打ちをしてきた。

「白石君と裕太…すぐに仲良くなれそうね」
「白石はともかく…裕太は大丈夫かな…?ああ見えて思慮深いし…」
「そうねぇ…でも大丈夫よ。なんてったって私の占いは絶対に当たるんだから!」
自信ありげにニコリと笑った姉を見てから、周助は再び白石たちの方に視線をやった。
それに気がついた白石がとても嬉しそうな笑顔を向けて手を振ってくる。
…一時はどうなるかと思ったけど…日付が変わるまでは、まだまだ時間がある。これから、もっともっと素敵な誕生日になりそうだ。
周助はそう思って嬉しそうに微笑んだ。


この後、白石と裕太はゲームの話で盛り上がり、すっかり意気投合したようだ。
思わず白熱し深夜になるまでずっと語り合っていて、由美子の占い通りになった。
周助はそれがとても嬉しかったけれど、その反面すっかり拗ねてしまって、翌日にも散々ワガママを聞いてもらったのは、またどこかのお話で…。



≪不二へのお祝いメッセージ&作品についてのコメント≫
この度は、素敵な企画に参加させていただきありがとうございました。
4年に1度の不二君の誕生日を盛大にお祝いしよう!と気合いを入れたはずなのですが…CP要素少なめで申し訳ありません…。
書いているうちにあれやこれやで紆余曲折した結果このようなお話しになりましたが、微力ながらもこうして皆様とお祝いできたことをとても嬉しく思っております。不二君、誕生日おめでとう!これからもずっとずっと大好きです!




 


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