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幸せのカタチ 塚不二(主催:智華)HP
深夜、不二は窓を開け、なんとなく空を見上げていた。
明日も練習があるし、早く眠らなければ練習に支障をきたすとわかってはいたが、それでも不二は眠る気になれなかった。
窓の外には沢山の星達が輝いていて、見ていて飽きなかったが、今は2月。いつまでも窓を開けていては不二は良くても同室の幸村と白石が風邪を引いてしまうかもしれない。
不二は音を出さないようにと慎重に窓を閉める。
まだ眠くないがベットに入ろうと、ふと視線を動かすと、ベットの上に置いておいた携帯電話が光っていた。
サイレントモードにしていたので、バイブや着信音が鳴らず気がつかなかった。
携帯電話を手に取り画面を覗くと、着信を告げるメッセージがあった。
「……誰…?」
しかし、画面に写る番号は非通知で誰からの着信かわからなかった。
不審に思った不二だったが、通話ボタンを押し、携帯電話を耳へと当てる。
「…もしもし…?」
不二は小声で電話に出る。
『もしもし、俺だ。すまない、起こしてしまったか?』
電話の相手は名乗らなかったが、不二は直ぐに相手が誰かわかった。
間違える筈がない、三年間ずっと隣で聞いていた、愛しい人の声。
「手塚?」
『ああ、久しぶりだな』
「…うん。本当に…久しぶりだね」
こうして声を聞くのは本当に久しぶりだった。
手塚がドイツへと旅立ってしまった後、一度手塚から連絡があったきりで、それ以降はお互い何の連絡もしていなかった。
思わず、瞳の奥が熱くなり、涙腺が緩みそうになるが不二はそれを堪える。
『今は部屋か?』
「うん。もう消灯時間過ぎてるし」
『そうか、良かった』
「え?…良かったって何が…?」
消灯時間が過ぎている事か、それとも不二が部屋に居る事だろうか。
どちらにしてもドイツにいる手塚には関係のない事だと思うのだが。
手塚の言葉の真意がわからず不二は首を傾げる。
『窓の外を見てくれないか?』
「窓?」
一度閉めた窓を、再び音をたてないように不二はそっと開く。
暗くてよく見えなかったが、月明かり下に人影を見つけた。
「まさか、君…」
不二は目を凝らし、その人影をじっと見つめる。視界が悪いが、不二が見間違える筈がない。そこに立っているのは紛れもない、ドイツへ旅立った手塚国光だった。
『ああ、あまり長くは居られないがな』
「ちょっ…待ってて今そっちに……」
手塚の元に急ごうとする不二の耳に、微かな物音が聞こえる。
その音は廊下の方から規則正しいリズムで聞こえて来た。見回りの警備員だろう。今部屋の外に出れば見つかってしまう。
けれどもたもたしていたら、この寒空の下で手塚を待たせる事になる。
一体どうすればいいのか、不二は悩む。
『…見回りか?』
不二の様子から察したのか、確認するように手塚が問う。
「…うん、ごめん…」
『いや、不二は悪くない』
どうすればいいのだろう。最良の答えが見つからず、不二は俯く。
『…不二』
「何?」
しばらくの沈黙の後、手塚が口を開く。
『飛び降りろ』
「え?でも…」
その方法も考えなかった訳ではないが、それでは手塚への負担が大きい。
『俺が受け止める』
「…でも…君の腕が…」
飛び降りる事に不安はないし、正直今すぐに手塚の元へ行きたい。
けれど、もし手塚の腕が再び故障してしまったら。
そう考えると、足が動かなかった。
『大丈夫だ。俺を信じろ』
「……うん」
不安を全て包み込む手塚の力強い言葉に不二は頷く。
手塚が大丈夫と言ったのだから大丈夫。
信じて不二は窓の外へと飛び降りる。
「っ!」
ドスンと言う衝撃と共に、懐かしい温もりが不二の身体を包む。
「久しぶりだな。不二」
見上げれば愛しい恋人の顔が目の前にあった。久しぶりに見る手塚の顔は、少し大人びていて。
お姫様抱っこの状態で、腕を痛めた様子もなかく、手塚はしっかりと不二を受け止めてくれていた。
「…手塚」
抱き上げられたまま、不二は手塚の首に手を回し強く抱き締めると、胸元に顔を埋めた。
「どうした?」
甘えてくる不二に手塚は優しく声をかける。
「……会い、たかった…」
「…俺もだ」
声を押し殺して泣く不二の頭を、手塚は優しく撫でる。
こんな風に不二を泣かせるのは一体何度目なのだろうかと罪悪感を抱くと共に、こんなにも自分の事を想ってくれているのかと、幸せな気持ちもなる。
「自分で留学すると決めたくせに、不二に会えない間、本当に辛かった。抱きしめたくてしょうがなかった」
留学は自分で決めた事で、手塚自身が望んでいた事だと言うのに、隣に不二が居ない事が、溜まらなく辛かった。
自分がどれほど不二に頼り、心の寄りどころにしていたか、痛感させられた。
そして、自分は不二なしでは生きていけないとも感じた。
「手塚…」
手塚も自分と同じように思ってくれていると思うと嬉しくて更に涙が溢れそうだった。
「ところで、プレゼントがあるんだが受け取ってくれるか?」
不二をそっと地面に下ろし、手塚は小さな紙袋を取り出すと不二に渡した。
「これなんだが…」
「ありがとう!…開けて良い?」
「ああ」
手塚から紙袋を受け取ると、了承を得てから包みを開ける。そこには、うさぎ形に切った林檎のストラップが入っていた。
ストラップの先には何か金属のような物がついていたが、袋の中に入ったままでは暗くてよくわからなかった。
袋か取り出し見てみると、そこについていたのは鍵だった。
「…これって…鍵?」
ただのアクセサリーではなく、本物の鍵のようだが、何処の鍵なのだろうか。
「ああ、ドイツにある俺のマンションの合い鍵だ」
「…行って良いの?」
「…と言うか、その…一緒に住んで貰えると嬉しい」
手塚はそう言うと少し照れくさそうに不二を見つめる。
「我が儘を言えば直ぐにドイツへ留学して欲しいんだが、不二にも都合があるし突然は難しいだろう」
本心は今すぐにでも不二をドイツへ連れて行きたいが、それは現実的に不可能だ。
「だから、高校を卒業してからでも、大学を卒業してからでも、もっと先でもいい。いつか一緒に住んで欲しい」
今まで何度も、自分の都合で不二に寂しい思いをさせてきたのだから今度は自分が待つ番だと思う。
不二が同じ気持ちで居てくれるのならば、十年先も、二十年先でも、いつまでも同じ場所で不二を待ち続けると誓う。
「同棲…って事?」
「…同棲でも良いが…」
ポケットに手を入れ、小さな入れ物を取り出すとそれを開ける。
そこにはアメジストの散りばめられたシルバーの指輪があった。
「最終的にはこれを、はめて欲しい」
「っ!」
手塚の言葉に不二は目を見開く。
「…結婚、してもらいたいんだが」
緊張しているのか、いつも以上に強張った表情を浮かべ手塚は言う。
「……僕で…良いの?」
突然の申し出に不二は驚きを隠せない。
こんな事を言われるなんて、夢にも思わなかった。
望んだ事がないと言ったら嘘になるが、男である不二が手塚と結婚出来るなんて不可能だと思っていたし、自分なんかが手塚の隣に居ていいのかと不安だった。
自分よりもっと相応しい相手が現れたら、自分の事など忘れられてしまうと思っていた。
「不二『で』良いんじゃない、不二『が』良いんだ。俺は不二とずっと一緒に居たい、俺について来てくれるか?」
相手が不二だから、一生一緒に居たいと思えた。他の誰かでは意味がない。不二だからこんなにも愛おしい。
「……うん!…どこまでも、ずっと手塚について行く。君の隣に立っていたい」
嬉しさで今にも零れてきそうな涙を必死に堪えながら、不二は笑顔で答える。
「良かった…必ず幸せにする」
不二の返事にかほっとしたような表情を浮かべ、手塚は微笑む。
「違うよ」
手塚の宣言に対し不二は首を横に振る。
「僕が手塚を幸せにするんだからね」
これだけは譲れない。
世界中の誰よりも、手塚には幸せでいてほしいから。
だから、他の誰でもない自分が幸せにしたい。
「そうか、では勝負だな。どちらがより相手を幸せに出来るか」
不二と同じように、手塚も不二には幸せでいてほしい。
「負けないからね!」
ただ二人一緒に居られるだけで、幸せになる。
これが僕達の幸せのカタチ。
END
≪不二へのお祝いメッセージ≫
お誕生日おめでとうございます!
いつまでも一番大好きです。
手塚とドイツで、末永くお幸せに。
≪作品についてのコメント≫
この後、ペアプリvol.10で言ってたように不二はドイツへ行って手塚と結婚式ですね!おめでとう!
って言うか合宿って何月までやるんでしょうか?…細かいことはスルーの方向でお願いします。
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