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三成は泣いていた。


「くっ…、憎み、恨み、呪っていた貴様をこの手で斬滅したというのに…、得たものは何もない…何も、だっ!…何だ、この虚無は……貴様の首を斬首し城下へ晒す事も、貴様の脱け殻を東軍の敵共へ引き渡す事も出来ない…ッ!其れ処か私は貴様の脱け殻から…ッ…ぐっ…、離れる事を、拒否している…!」


哀しみ怒り空虚から吐露した言葉は素直な三成の心境だった。

家康から離れられない自分に理解が出来ず、しかし、心は確かにその場を離れない。

最早、明確だった。



三成は家康をその手で殺めた事を後悔しているのである。


「答えろ家康ッ!…私の…声に、応えろ…ッ!」


気付くのが今更遅過ぎた。

三成は、家康の遺体の上に覆い被さり、静かに泣き続けた。

行灯の柔らかな灯りが濡れた頬を照らす。

暫くそうやっている内、仏向間へ誰かが入って来るのを察したが、三成はそのまま動かない。

刑部が入ってきたと思い込んでいたのだろう。

しかし、行灯の灯りが届く範囲まで歩み来た者は刑部ではなかった。



「あの、勝手に入っちゃってすいません!暫く外で待ってたんですけど、立ち聞きってやっぱり良くないなぁと思って、入って来ちゃいました!」


暗い室内と重苦しい空気を割り裂く様な明るく、そして可憐な女子の声。

鶴姫である。



「……何だ。貴様は」


三成はやはり別段慌てることも、驚くことも、更には激昂することもなく、そのままの態勢で彼女を流し見る。

鶴姫は、家康の亡骸に被さり自分を見詰め射る三成の妙艷あるその姿に一瞬飲まれてしまったが、すぐに気を取り直して元気よく答えた。




あきゅろす。
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