6. 三成の方から、本当に軽く、唇を重ねてきた。 寒さに互いの頬の冷たさが伝わる。 しかし、舌先だけは冷たさから熱いものへと変わっていく。 僅か数秒ほどのその瞬間は、ワシには時が止まった様に感じられて仕方ない。 「下ろせ家康。自分で歩かせろ」 三成の声に、まさかの三成からの接吻の余韻に浸っていたワシは、慌てて背から下ろした。 山頂に聳える大きな石碑が見える。 「ここは一面雪景色だなぁ」 黒い石碑に白がかかって落差が何とも言えない美しい。 「ここへ来る途中の坂には雪がなかったというのに。なあ、三成」 変わらない。 此処だけは変えない。 変えさせない、絶対に。 「三成、今年も前と同じ景色だ。変わらぬ山道、お前が転んだ橋はやはり雪が溶けていたな。そして坂道、山頂…何も変わらない。あの頃と…」 あの頃にはこんな石碑はない。 あの頃には確かに三成、お前がいた。 「…三成…、何故お前だけが足りない?お前だけが…ッ、」 佐和山へ引き渡すまでの抗いだった。 妨害だと言われようが構わない。 一時保管と銘打って三成の亡骸を石碑の下へ寝かせてある。 まだ何も知らず、素直なままいられたあ頃へ もう一度最初から長い道を歩こう 一緒に 必ずまたその命は輝くからーーー… END. |