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アザレア





「ギア…お前…そんなに馬鹿だったか」

神妙な顔をしたクシアが憐れんだ視線をギアに向けて呟く。

「馬鹿だなんて心外っす!!」

立ち上がり憤慨するギアに俺はなるべく丁重に言う。

「ギアさん、一応言っときますけど。俺、男ですからね?」

ズドーンッッ

という効果音が付きそうだと思う。

まるで雷を脳天から喰らったかのように目を見開いてギギギッと首をこちらに向けた。

「お、男…?」

驚愕に零れた言葉はクシアにより一蹴される。

「第一、一人称“俺”だろうが。気付け馬鹿」

落雷第二撃直撃しました。

ギアはそのまま崩れ落ちた。

「何かすみません。ギアさん」

「いや…こちらこそ申し訳ないっす……」

肩をがっくりと落とすギアに苦笑するしかない。

本気で俺が女だと思っていたらしい。

確かに着ている衣類も体のラインを曖昧にしてしまっていたが、声だって男の声だろうし、クシアの言う通り一人称は“俺”だ。

気付かないギアもギア、といったところだろうか。

「あれ?兄ちゃんどうしたの?」

大きなお盆に料理を乗せてきたカイアが不思議そうに兄を見る。

「カイア、馬鹿はほっとけ。早く飯回せよ」

「あ、うん」

カイア君、お兄ちゃん放置で良いんですか…。

後に出てきたリデルもキルニアもミカエルも沈んでいるギアを完全にスルーしていた。

良いのだろうかと思っている間に食事の準備が終了していた。

簡単に言えばパンとシチューの様なものだ。

今までにも一度だけ食べた事がある。

その時は鹿肉が入っていたので残してしまった。

今回も何かしらの干し肉が入っている。

『…頑張るか』

ハッキリ言って食事は用意してもらわなくても良かったのだが、人の厚意をむげにもできない。

「じゃ、いただきまーす」

リデルの掛け声に各自適当にいただきますを言って皆食事に手を付け始めた。

「ケイさんも遠慮なく食べてね!今日はミカエルさんが作ってくれたから味は保障できるよ♪」

「お前が作ると食べ物じゃなくなるもんな」

「何を〜ッッ!!」

リデルとクシアの言い争いはいつもの事の様だ。

皆苦笑と共に二人を生温かい目で見守っている。

「あはは、じゃあありがたく。いただきます」

決意を固めてスプーンを手に取った。

「ケイさん!!!」

「お!?」

沈んでいたギアが復活した。

勢い良く俺の手を掴んで真剣な顔をしてくる。

スプーンは持ったままの俺の手はギアに包み込むように力強く握られる。

「どうしました?;;」

あんまりに真剣に見つめられて反応に困る。

「俺っ!!」

ギアはぐっと一度唾を飲み、意を決したように口を開いた。

「俺!!ケイさんが男でも構わないっ「すみません。俺、男色の気は無いんです」す…」

撃沈。

瞬殺にしました。

遮る様に言ってしまったのは許してほしい。

俺も驚いたんだ。

いきなりのギアの爆弾宣言に周りで固まっていた皆(ジェイ以外)は大爆笑。

「ギアさん…」

俺は膝をつくギアの正面に膝を折る。

「何も言わないで下さい…。ケイさん。俺も男っす。玉砕覚悟で言ったこの身に慰めの言葉はいらないっす!」

「いえ、そうではなくて…。あの、手を放して貰えませんか?」

そう俺がギアの正面に膝を折ったのは未だ手が力強く握られていて放してもらえていなかったから。

そろそろ放してほしい。

スプーン持ったままで何か間抜けっぽいし。

「あはは!!ギア未練がましいー!!(心からの爆笑)」

「言葉だけは立派だな(蔑みを含んだ憐憫の目)」

「兄ちゃん…(純真な憐みの微笑み)」

「かける言葉もないね…(ただただ温かい眼差し)」

上からリデル、クシア、カイア、クライ。

他(ジェイ以外)は笑いを必死に堪えている。

「わぁ!!!ごめんさないっす!!!!」

飛び上がるように俺の手を放すギアに微笑み伝える。

俺からの精一杯の励ましの言葉。

「ギアさん、人は見た目ではありませんから。きっと良い人がいます」

それは取り様によっては俺の顔の事を言っているようであり、ギアの…まぁうんについて言っているようでもあった。

「ククッお前言うな」

嫌味ともとれるこの言葉に腹を抱えるクシアは性格が悪いと言うかドSというか。

ともかく、賑やかな食卓となった。






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