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アザレア
10



「例え表面に泥がつこうとも芯の輝きは変わることはありません。それが人の本質と言うもの。貴方の本質は変わらないのですよ。御身を蔑まれるな」

静かにそう告げてくるアロウに俺は顔を歪めた。

「…詭弁です。そんなのは…。俺はあなたたちにそんな風に大事に思われるような人じゃない!」

頭を振る俺にアロウは痛ましそうに目を細めた。

「貴方が逃げ延びた先はどれ程恐ろしい所だったのでしょうな…。こんなにも貴方を苦しめる」

「違う!確かに"あっち"俺にとっては全部灰色で汚い世界だった。でも、違うんだ」

恐ろしい世界ではなかった。

むしろ生きていくにはなんとも温い、容易い世界だった。

こちらの世界の方がよほど恐ろしい。

美しすぎて眩しくて、それに恐怖する。
ただ、その恐怖は生を感じさせてくれる。

ここまで考えて俺は息をはく。
嗚呼、俺は結局この世界が心地よくて仕方がないんだ。

神子がどうのこうの何てたいした話じゃないのかもしれない。

綺麗な神子だからじゃない。
"俺"だからこの世界がこんなにも愛おしい。

なんだかそう考えたら胸にストンと降りた。

一人納得して落ち着いているとアロウがクスリと笑った。

「す、すみません。取り乱して…;;」

「いえ、神子とはいえ貴方も人。悩み取り乱すことも儘あるでしょう」

柔らかく微笑むアロウに俺は後ろ首の辺りを掻く。
気恥ずかしいようななんとも言えない気持ちだ。

くすぐったい。

「その"神子"ってのはやっぱ止めてくれません?俺はただのケイ、てことでここは一つ頼みます」

シリアスは俺には似合わないよね!

俺は両手を合わせて軽い調子でお願いする。

先程から一転、へらっと笑った俺にアロウは一つ頷いた。

「貴方がそう望むのでしたら…」

「あざすっ!!いやぁ〜辛気くさいのは柄じゃないんで♪」

「ふ、一息つけましょう。食事の用意は整っています故」

「うは〜ありがとうございます!丁度お腹すいてきました」

立ち上がったアロウに俺も倣う。




次に通された部屋には果物や海藻(?)が色とりどりに盛られた大皿がいっぱいに並べられていた。

「うを…豪勢…」

ポカンと部屋を見渡していると用意してくれていた地の民の女性が俺に恭しく礼をする。

「お帰りなさいませ神子様」

「っ…た、ただいま?あー、と…俺、ケイね。名前呼びで宜しくお姉さん」

ヘラッと笑って頼んでみる。神子呼ばわりはしばらく勘弁してほしい。

「………………」

長い黒髪を後ろで一つにまとめている彼女が顔をあげると髪がさらりと滑らかに流れる。

驚いたように凝視してくる彼女にどうしたのかと首を傾げる。

彼女はそんな俺にハッとしたような顔をすると気恥ずかしげに目を泳がす。

「…で、では……ケ、ケイ様とお呼びしても、よろしいでしょうかっ!?」

キュッとエプロン(?)の裾を握りしめて顔を真っ赤にさせて彼女は俺に涙目で聞いてくる。

おう、美人さんだからヤバい目の保養☆
額にある二本の角はやっぱちょっと怖いけど(笑)

「ん〜様とか堅苦しいし、呼び捨てでも」
「そんな!な、名前でお呼びできるだけで身に余ります! 」

「えぇ〜…ん、まあ良いけど。ところでお姉さんのお名前は?」

あんなに必死に言われたらこれ以上なにも言うまいと話を変えてみる。

「はっ!失礼しました!私はクダと申します」

ペコリとまた頭を下げたクダさんに顔の筋肉が緩む。

うはあ可愛い人。

「改めてはじめましてクダさん」

「は、はい!」

うん、地の民の人じゃないけど尻尾が見える。
可愛い柴犬の(笑)

綺麗な人だけど行動がいちいち可愛いわ〜。

「クダ、ケイ様を御席に」

和んでいると俺の後ろからクダさんに指示が出る。

振り返るとラダが無表情のまま立っていた。

ラダの隣にはアロウも少し困ったように眉を下げて俺たちを見ていた。

「クダ、ケイ様にお会いできて嬉しい気持ちもわかるが、もう少し落ち着きを持ちなさい」

「はい…。申し訳ございません…」

あー、シュンとしている姿も可愛いわ〜。

のほほんと見ていたらラダが俺の方を向いて軽く頭を下げる。

「愚妹が失礼いたしました」

「え……?……妹?」



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