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アザレア



「え、と…<旅人>です……?」

考えて浮かんだ言葉。

疑問形で言ってしまったがこれ以外に<自分は何者か>という答えになるものが無かった。

「<旅人>…まだそんな習慣があったんですね…」

カトルさんを見れば少し眉間に皺を寄せて難しい顔をしていた。

あ、<旅人>いるのは<ここ>でも不味いのかな。

いけないと思ってベッドから降りようとする。

「何をしているんです。まだ寝てなさい」

カトルさんは俺をベッドに押し返そうと肩を抑えつけてくる。

「いやっ!でもっ!!」

わたわたとカトルさんに抵抗する。

<ここ>にも長くは居てはいけない、とただただそれだけを思って。

「あ〜カトルが病人襲ってる〜」

「はぁ?」

「へ?」

間延びした声に俺とカトルさんの動きが止まった。

声のする方を見れば先程出て行ったディークさん(?)がいてこっちを見て指をさしている。

まるで悪戯を発見した小学校低学年の少年の様な顔をしてこっちにやってくる。

「や〜んっ!カトルってば嫌がる相手にサイテ〜」

ハッとして今の自分たちの体勢を思い出す。

俺は肩肘をベッドに付いてカトルさんをもう片方の手で押し返そうとしている。カトルさんは俺の肩を押して覆いかぶさるように押さえつけている。

更に俺の服は今の攻防で前が若干肌蹴かけている。

「っ!!すみません!」

慌てて俺から退くカトルさん。

「へ?いえ、こちらこそごめんなさい」

なんだかこちらまで謝ってしまう。

「カトル様ヘンタ〜イ」

「誤解です!!!変な想像しないで下さい!!!!!」

揶揄しまくるディークさんに心底不快そうに反論するカトルさん。

「あの…ホントに誤解ですから」

遠慮しがちにそう口にするとディークさんはこちらに来て俺の肩に手を回し、

「良いんだよ〜。怖かったね〜。俺が来たからもう大丈夫だよ〜」

「いや、だから…「騒々しいよっ!!」ふぇ?」

終わりの見えない良い合いを一刀両断した凛とした声。

「全くっ!病人の前で何してんだい!!!」

あー、となんて言うかな厳しそうなお母さんみたいな女性が現れました。


――――――――――


「さて、体調はどうだい?」

カトルさんとディークさんを部屋から追い出しお母さんみたいな方は俺の額に手を当てた。

「熱は無いね。気分は?」

「えっと、問題無いです。…あの、貴女は?」

「あぁ、あたしは薬師だよ」

「あ、そうなんですか…」

俺の質問にきびきびと答える薬師の方。名前聞くつもりだったんだけど…。あ、名乗って無かったからかな。

「あの、俺圭って言います。えと、お世話になりました」

持参していたカバンを漁っていた彼女は顔を上げてこちらをマジマジと見てきた。

「え、と…?」

あんまりにがん見されたので視線をどこにやれば良いのか落ち着きなくウロウロとしてしまう。

「アンタ<ニンゲン>にしちゃ礼儀正しいね」

「はい?」

「いや、ごめんよ。あたしはニーダ」

突然言われた言葉にちゃんと反応できずにいるとなんだか良くわからないけど名前を教えてくれた。

「ニーダちゃ〜んもう入って良い〜?」

間延びした声。ディークさんが顔をひょっこり出して聞いてきた。

「ちゃん付けは止めなって言ってるだろ、もう良いよ。入ってきな」

やった〜と言って入ってくるディークさんとカトルさん。

カトルさんはなんだかムスッとしている。



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